メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

FITは「自然エネ抑制法」になるのか

原発優先。全てを再稼働し、大間さえ計算に入れる「空押さえ」も

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 自然エネルギーを増やすためのFIT法(固定価格買い取り法)が導入されて2年半。早くも「自然エネ抑制法」に変えようとする圧力がでてきた。

 2014年9月に電力各社が「太陽光発電の計画が増えすぎた」として送電線への接続協議を中断(保留)し、12月には国の審議会(系統ワーキンググループ)にかなり小さな「導入(接続)可能量」をだした。この数字は、自然エネの可能量を過小評価するものだが、その裏には「全原発が再稼働する」という驚くような原発重視の想定と、「連系線はほとんど使わない」という地域独占的な送電線運用がある。日本では自然エネはまだまだ少ないが、「大きくは増やさせない」という圧力は本当に強い。

 自然エネへの圧力は、03年に施行された「電力会社に一定量の自然エネの電気を調達させる」RPS法(新エネルギー利用特別措置法)を思い出させる。RPS法も期待されたが、肝心の「調達する義務量」が小さすぎて、骨抜きにされた。その反省にたってFITに移行した。今回失敗すると、日本はRPSとFITの両方で失敗することになる。

 増えているのは太陽光の「申し込み」段階のもの

 自然エネは太陽光(非住宅、住宅)、風力、地熱、中小水力、バイオマスに分類されている。この中で2012年7月のFITスタートから、大規模な太陽光発電の計画だけがぐんぐん増えた。14年6月末段階で、政府の認定を受けた発電所の計画は7178万キロワットだが、大規模な太陽光発電(非住宅)が92%の6604万キロワットを占めた。

 買い取り価格が高く、もうかるビジネスが期待されたこと、環境アセスがないなど、手続きが簡単なことが大きな理由だ。太陽光に申請が集中する中途半端な制度設計でスタートしたともいえる。認定は、書類の体裁が整っていれば簡単に降りる。準備不足や土地の手当ても不十分な計画も多い。「空押さえ」とよばれる。

 9月末に北海道、東北、四国、九州、沖縄の5電力が、この太陽光発電の計画急増を理由に、「これがすべて建設され、発電を始めたら大変なことになる」として送電線への受け入れ、その協議を即日中断した。

 「認定」はまだ「申し込み段階」に過ぎない。そのあと事業者と電力会社の間で接続可能性などを話し合うので、電力会社が承認しなければ建設に進めない。電力会社にとって差し迫った状況ではなかったはずだが、電力会社は一斉に「大変だ」と声をあげた。経済産業省は審議会(系統ワーキンググループ)を立ち上げ、電力各社に導入可能量を計算させ、12月中旬にこれを了承した。これが表「系統ワーキンググループによる各電力会社の接続可能量の検証結果」である。

これが「当面の自然エネ導入可能量」これが「当面の自然エネ導入可能量」

 「現行ルールにおける接続可能量」と、「認定量」を比較すれば、表の意味が分かる。東北電力管内では1076万キロワットが認定されているが、552万キロワットしか入らない、ということだ。

 北陸、中国電力を加えた7社では、計4076万キロワットの認定量に対して、接続可能量は6割の2369万キロワット。4割があぶれてしまう。

 原発の優先、ちょっとやり過ぎ?

 本当にこれだけしか入らないのか?あぶれた計画はあきらめるしかないのか? そもそもこの数字は太陽光だけだ。「参考」とされている風力は非常に少ない。地熱や中小水力、バイオマスはどうなるのか?

 こうした議論はこれからだが、今後、自然エネ全般で強い抑制がかかりそうだ。接続可能量の計算の問題点を考える。

 (1)原発を現実以上に評価。

 審議会では「原発、水力、地熱は準国産エネルギーなので可能な限り運転する」「稼働率は震災前30年の平均で」となっている。

 つまり全原発が再稼働すると考える。現状では、動いている原発はゼロなのに、どう考えても実力以上の扱いだ。いったいいつをイメージしているのか。

 再稼働どころか、東北電力ではJパワーが青森県に建設中の大間原発さえ計算に入れている。大間は全炉心でプルトニウム燃料(MOX燃料)を使う原発だ。まだ世界に例がなく、安全審査がどうなるかも分からない。うまくいっても運転開始は2021年度、つまり7年後だ。電力会社による巨大な「空押さえ」といわれている。

Jパワーが建設中の大間原発。青森県。運転開始は2021年となっている。Jパワーが建設中の大間原発。青森県。運転開始は2021年となっている。
 そして原発は1月から12月まで一定の出力で運転するとされる。例えば北海道電力がもつ原発は3基で合計出力207万キロワット。それが稼働率84・8%、つまり175・5万キロワットで年中運転すると考える。これは現実とは相当ズレる。ふつう原発は平均して運転するのではなく、電力需要の少ない時期に定期検査を集めるからだ。

 雪解けの5、6月は水力の発電が増え、60万~80万キロワットになる。この時期は電力消費も少なく、最低は300万キロワットほどしかない。これを原発と水力で大半(175+80=255)をまかなってしまい、残りを火力と自然エネで埋める計算になるので、自然エネの入る余地はさらに小さくなってしまう。自然エネの数字が小さくなるような計算方法といえる。

発送電分離なし、連系線使わず

 (2)自然エネの予測、送電網での制御が遅れている

 送電線に多く入れようという姿勢も弱い。スペインでは気象予測を利用して前日から「自然エネはいつどのくらい発電するか」を予測する。スペイン全土の自然エネ発電の制御は送電会社REEの「再生可能エネルギー制御センター」(CECRE)が一括して行っている。スペインでは一日の大半の時間で風力発電の電気が全土の需要の50%を超えることもあるが、問題なく運用している。そのオペレーターは1人だ。

 ITを駆使し、いざというときには風力などをこまめに止める。日本にも止める制度があるが、これまでは電話で「あす一日止めて欲しい」と頼むローテクだった。日本は自然エネの送電制御技術の高度化が必要だ。

 14年7月、経産省の審議会(新エネルギー小委員会)のメンバーとして、欧州視察に参加した高村ゆかり名古屋大学教授の資料によると、スペインでは再生可能エネルギー優先規定により、出力規制は、1)揚水発電、2)水力発電、3)石油・ガス発電、4)コンバインドサイクル発電、5)石炭火力発電、6)原子力発電、7)風力以外の再生エネルギー発電、8)風力発電になっている。自然エネ、風力の優遇がはっきりし、その方針に合わせて送電線を運用している。

(3)電力市場が自由化(発送電分離)されていない。

 FITが機能するには、「適正な価格の設定」とともに、自然エネを優先的に送電線に接続することが不可欠だ。

・・・ログインして読む
(残り:約994文字/本文:約3686文字)