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「エネルギー共有知の蓄積」 飯田氏に聞く〈上〉

WEBRONZAとISEPのエネルギーデモクラシーが連携

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 原発・エネルギーをめぐる議論は、福島第一原発事故前に戻ってしまった感がある。一度は国民的なテーマになったにもかかわらず、国の審議会では、まるで何事もなかったかのような主張が交わされている。なぜ、日本ではエネルギーをめぐる議論が深まらないのか。エネルギーに関する私たちの意識は、4年前に戻ってしまったのか。

 WEBRONZAは2015年1月、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)が編集するウエブメディアEnergy Democracy(エネルギーデモクラシー)との連携を始めた。

 WEBRONZAとEnergy Democracyは、自然エネルギー、環境問題などの分野で、それぞれの論考の共有をはじめとする連携プロジェクトを始めました。近い方向性と問題意識をもつ2つのメディアが、互いに連動することで、より幅広い層の多くの方々に、こうした領域の良質な論考をお届けできると考えています。自然エネルギーがもたらす変革を中心に、気候変動対策、原子力政策などに関する論考を国内外の専門家やジャーナリストらが執筆していきます。今後は他のメディアも含め、より広範なメディアアライアンスを形成し、未来のエネルギーから地方、地域社会のあり方まで、プログレッシブで多様な言説を紹介していく予定です。(WEBRONZA編集長 矢田義一)

 飯田哲也・ISEP所長に、エネルギーデモクラシーの開設の目的や他メディアとの連携の意義、エネルギーに関する議論を深めるにはどうしたらいいかを聞いた。

 ――2014年末、エネルギーデモクラシーを開設されました。

飯田哲也所長エネルギーデモクラシー開設の目的を語る飯田哲也・ISEP所長

 日本のエネルギー分野に20年以上関わってきましたが、メディアを含めエネルギーの議論が取り散らかっている感じがあります。電力自由化や自然エネルギー、核燃料サイクル、地球温暖化問題、そして脱原発と、その都度その都度、特定のテーマで盛り上がりますが、やがてそれを打ち消す議論が出てきて、混乱したまま終わってしまう。

 たとえば地球温暖化問題も、日本では2008年のG8洞爺湖サミットと翌年にコペンハーゲンで開かれた「地球温暖化防止サミット」(COP15)では大いに盛り上がりましたが、3.11の福島第一原発事故が起きて以降、当然ながら世論は脱原発一色となりました。一方で、地球温暖化問題はほとんど議論されない状態になってしまいました。政府と産業界は、3.11以前から地球温暖化防止を原発推進の口実として使ってきました。再び、原発再稼働を進めるために、パリで今年末に開かれるCOP21に向けて、そうした露骨な議論を押し出してくるでしょう。そのため、脱原発派の一部には「地球温暖化問題は原発推進派による陰謀だ」という議論もあるくらい、捻れてしまっています。

 これではまるで、ボールのあるところにわーっと集まる子どものサッカーのような状態です。福島第一原発事故は、ある意味では、この国のエネルギー政策に関わる、官僚や研究者、メディア、ビジネスパーソンなど広い意味での「知識人」が、歴史とともに一定の共有知を積み重ねる「コモンセンス」がないままにやってきた「エネルギー政策の失敗」の象徴ではないでしょうか。にもかかわらず、未だに環境エネルギー政策のあり方やその議論の仕方を見直そうとしないまま、今日の混乱と混沌とした状況が放置されています。

 欧州、特にドイツや北欧の議論のあり方や、それを政策や現実に適応していくやり方は、日本とは大きく異なるようです。環境エネルギーにかかわるさまざまな知識人が、自由にさまざまな仮説や政策提言を行い、オープンな議論を重ね、一定のコンセンサスが積み重なり、いくつかの国々や欧州連合で一定の政策・制度が実現し、それが現実や経済を変え、その結果を検証した上で、また新しい政策課題に対応していく。積み重ねのあるポジティブフィードバックのように見受けます。これに対して日本のエネルギー政策の歴史は、積み上げては壊す、賽の河原のような感覚があります。

 やはり、エネルギー問題にかかわる知識人の中で、歴史と現実の中で積み重ねていく「総体としてのコンセンサス」(環境ディスコース)が必要だと考えます。それは、歴史とともに変わっていきますが、日本のように「壊して捨てる」のではなく、「基層の上に積み重ねる」ような「共有知の蓄積」とならなければいけないのではないか。いわゆる一般常識ではなくても、この分野の専門家や関係する人たちが共有する知を積み重ねていくことのできる「共有知の蓄積」です。そのための言論の場とそこに参加する良識ある知識人が必要なのです。

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