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まず原発事故の検証を

電源ミックス議論に求められる論理と倫理

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(会長は坂根正弘・小松製作所相談役)は「長期エネルギー需給見通し小委員会」(委員長は坂根氏)を設置し、1月30日に第1回会合(分科会との合同会合)を開いた。かつて、民主党時代にも審議会で2年近く議論されても結論が出ず、今回はメンバーを大幅に入れ替えての再出発であるが、はじめから電源構成(ミックス)を議論するという、議論の進め方にそもそも問題があるように思われる。

 前提条件の分析が不可欠

 総合資源エネルギー調査会であるならば、電力のみならず、日本のエネルギーの供給・消費の全体像を明らかにして、その現状分析、政策目標設定、政策体系のあり方を検討するという論理的な議論の方法が導き出されるはずである。今回、現状の説明は事務局サイドから多少あったが、体系的なものではない。とくに原子力については、福島原発の事故で起きた事態を踏まえて、事故の背景、原因、結果の総合的な検討を行い、今後の電力における原子力の位置づけ、長期的なあり方などの議論があってしかるべきである。

 福島の事故により、「原発は安い」「原発は安全」といわれてきた前提条件が大きく崩れたのであり、未だに13万人が避難をせざるを得ないという前代未聞の事態となっている。原子力を続ける場合には、この面からの検証が不可欠である。「人間は技術的に可能なことを何でもやってよいわけではない」、それは社会が判断するという倫理(『ドイツ脱原発倫理委員会報告』2011年5月)が必要なのである。

 昨年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、原子力を「エネルギー需給構
造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けた一方、原発依存度については「省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」との方針を打ち出している。しかし「重要なベースロード」と「原発依存度を可能な限り低減」させることは、矛盾を孕んだものである。

日本のエネルギー生産、消費の現状分析

 日本のエネルギー供給は、1次エネルギー比で、福島事故前は10%程度が原子力であり、また約半分を石油が占め、残りを石炭と天然ガスが続くという構成であった。水力などの再生可能エネルギーは5%程度であった。これを見れば、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が圧倒的な割合であり、これが温室効果ガスの発生原因となっている。

 それに対して、エネルギー消費面では、投入エネルギーの約30%が損失し、電力用消費が約30%、残りはガソリンなど石油製品、鉄鋼生産用などの石炭、火力発電と都市ガス用の天然ガスである(図参照)。

拡大1次エネルギーでみたエネルギー収支

 原発ゼロで30%を失った電力供給は、ピークカットと省エネ(10%程度)、天然ガスと石炭火力の代替により賄い、この2年近く「原発ゼロ」を実現している。「原発ゼロ」でも日本の電力を賄えることが実証されたのである。

 ただし、CO2排出は増え、かつ輸入化石燃料代金が拡大している。したがって、省エネの徹底(約30%のエネルギー損失がある)と再生可能エネルギーの拡大、エネルギー源の多様化が不可欠である。省エネを実施していく場合には、電力のみならず、熱分野、交通分野の省エネの可能性と実施方法の検討が極めて重要であり、交通分野での省エネは公共交通や新幹線など日本の優れた面を活かすことができる。日独間でも技術交流が必要な分野である。

エネルギー政策の前提条件、目標、枠組みの重要性

 電力のみならず、エネルギー全体の政策を検討する場合、前提条件、目標、枠組みを総合的に検討することが大変重要であり、これなしに電源構成を問題にしても、議論は深まらず、原発を巡る賛否に終始する可能性が高い。経済性、国際競争力、支払い可能性、環境保全性、などを前提条件として、地球温暖化のリスク、原子力のリスク、そして供給安定性のリスク、これら3つのリスクを総合的に下げていくことについて、合意を得られるかどうかがカナメである。

 ドイツは、この点で、長年の議論と福島事故を受けて最終的に「脱原発とエネルギー大転換」を決め、2大目標とする「脱原発と温室効果ガス削減」のために「再生可能エネルギー拡大と省エネの徹底」を政策目標とすることで合意したのである。ドイツが最終的に脱原発の方向性を決めた3つの理由は、以下の総合的判断である。
(1)原発は事故が起きた場合のリスクが大きすぎる(吉田調書の「東日本壊滅」の予測を見よ)。
(2)原子力でなくとも安全なエネルギー源がある。
(3)脱原発の方向に行くことが、再生可能エネルギー拡大、省エネなどによる経済力強化、輸出などの経済的利益になる。

 一気に「ゼロ原発」ではなく、脱原発の方向を明らかにしながら、2022年を期限と決め、段階的にゼロ原発を目指していることも重要である。こうした検討と論理・倫理の方向性は日本がドイツから大いに学ぶ必要がある。これに対して、日本では福島事故を踏まえた本格的な議論が国会や国の審議会において十分なされていないのは、極めて残念である。先日亡くなったワイツゼッカードイツ元大統領の連邦議会演説(1985年5月8日)にあるように「過去に眼を閉ざす者は現在にたいしてもやはり盲目となる」のである。

 以上のような、前提条件と福島事故の検討を踏まえたうえで、電源構成のあり方について議論、判断していくことが論理と倫理というものである。

電力を巡る枠組み条件の変化を踏まえる必要性

 電力については、これからの制度枠組みが大きく変化し、電力自由化と発送電分離の日程がすでに決まり、電力会社の地域独占と総括原価方式も大きく変わりつつある。原子力を続ける場合にも、基準の強化、安全対策の抜本的見直しに対応して、原発そのもの以外の避難計画や道路整備を含めれば、原発の本格的な再稼働には膨大な追加投資が必要となってくる。そのために、原発部門が各電力会社のお荷物になる可能性があり、原発の国有化やイギリスのような、原発へのFITの適用などの可能性も出てくる。 ・・・ログインして読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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