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認知バイアスはカネになる。のだが。(下)

私たちは「すぐ売り手の術中にハマる」ことを自覚しよう

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 前稿では滋養強壮剤を例に、即効成分と宣伝される漢方成分などが違い、効果が後者に誤帰属されることを示した。意味不明なカタカナや術語がより効果的な理由も、この「誤帰属」の観点から理解した。引き続き「認知バイアスをカネに替える」からくりを検証しよう。

さまざまな認知バイアス

 「誤帰属」の例は、前稿で滋養強壮ドリンクに絡めて説明した。本当はアルコールとカフェインが効いているだけなのに、仰々しく宣伝された漢方薬効成分がすぐ効いたように錯覚してしまう。これだ。

 「プラセボ(偽薬)効果」はご存じの方が多いと思うが、「いわしの頭も信心から」ということだ。効くと 思って飲めば本当に効いてしまう。最新の神経科学の成果によれば、必ずしも「偽」とは言えない。つまり従来言われてきたような「偽の」心理効果ではなく、条件次第では薬と似た神経生理作用で効いてしまうことがわかってきた(詳しくは本欄拙稿「いわしの頭も信心から−神経科学の未来形」参照)。

店頭に並ぶワインの値段はさまざま……

 「値札効果」というのは、たとえば数百円の安ワインでも、数千円の高価な値札を付けて味見させると、本当に美味しく感じられる効果を指す。脳の前頭部にある「眼窩前頭皮質」が関与することがわかってきた。筆者のカリフォルニア工科大学の同僚である神経経済学者、A. ランゲル教授らの研究だ(本欄拙稿「ワインの値札はおいしさを変える−神経経済学の本当のねらいとは」)。

 ジンクピリチオン、誤帰属、プラセボ、値札、と心理効果を挙げてきた。ざっくりまとめれば「わからないものほどありがたく、摩訶不思議な力を発揮するように感じられる(ので実際に発揮してしまう)」。滋養強壮剤の例に戻れば、意味不明の漢方成分がうたわれ、高価で、売れている。だから効くと思って買ってしまい、実際即効成分で「効いて」しまう。「偽」の効果とばかりも決めつけられない 。

メニューの書き方、「ドル($)マーク」の逆効果

 これらはいずれも「商品を消費者にどう提示するか」という角度からの、潜在マーケティング戦略だ。他にも面白い事例がある。

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