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「対話」することの理由 「変化」することの勇気

特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針改定をめぐって

中村多美子 弁護士(家族法、「科学と法」)

 原子力発電所からもたらされる使用済み核燃料の問題は、しばしば、「トイレなきマンション」と表現される。原発自体の是非はさておき、すでに社会に存在している高レベル放射性廃棄物をどう処分するのかは、待ったなしの課題だ。

 少なくとも現行法では、地下深部の地層に埋設する方法(地層処分)による最終処分を行うとされ(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律。いわゆる「最終処分法」)、これまで政府は、最終処分場を受け入れる自治体の公募を待っていた。

 ところが、核のゴミを何らかの方法で処分しなければならない必要性は共有されつつも、そうした施設を自分の住む地域に作ることに住民は反対する。「うちの裏庭以外で」Not In My Back Yard(NIMBY)というわけだ。自治体公募を待っていた方針を転換し、政府は、処分実施主体であるNUMO(原子力発電環境整備機構、「ニューモ」)に委ねられていた処分地選定に積極的に関与する方針に転換しつつある。

 このことは、最終処分の具体的な実施を示した「基本方針」の改定案にもあらわれている(この改定案に対するパブリックコメントは3月20日まで募集中)。

拡大原子力発電所の高レベル放射性廃棄物処分のあり方を話し合った反対運動の住民集会=2007年、岡山市

 NIMBY状態を打開しようと、基本方針改定案では、候補地の住民はもちろん、国民全体にむけて、最終処分に対する理解増進と合意形成を目指し、「対話の場」を設けるとしている。

 高レベル放射性廃棄物の問題に限らず、昨今、科学技術をめぐる政策の問題では、「コミュニケーション」や「対話」という言葉がキーワードのように語られるが、そもそも、わたしたちは、科学技術の問題について、なんのために「対話」をしようとしているのだろうか?

 対話の理由を考えてみると、そこに科学技術のコミュニケーションをめぐるすれ違いの一端がかいま見える。

 政策実施者の「コミュニケーション」という言葉遣いには、まず、科学技術の基礎的な知識を正しく提供するという、受け手の理解促進を目的とした教育的なニュアンスが強く感じられる。特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針改定案でも、最終処分地の選定にあたり、「関係住民の理解の増進」のための施策として、「対話の場」が位置づけられており、地層処分の技術的信頼性に対する専門的な評価を国民に十分に共有してもらおうとしている。

 専門的評価を理解するための基礎的な科学技術の知識が十分に提供される必要性はもちろんだが、科学技術の知識が共有されたとしても、必ずしも合意形成に至るわけではない。

 この点、基本方針改定案では、

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筆者

中村多美子

中村多美子(なかむら・たみこ) 弁護士(家族法、「科学と法」)

弁護士(大分県弁護士会)。1989年京都大学農学部入学、翌年法学部に転入学。95年司法試験合格。京都大学博士(法学)。関心領域は、家族法や子どもの権利、そして「科学と法」。09年度から始まった科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センターの「不確実な科学的状況での法的意思決定」プロジェクト代表を務めた。日弁連家事法制委員会委員、大分県土地収用委員会会長、原 子力発電環境整備機構評議員。【2017年3月WEBRONZA退任】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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