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グローバルな「エネルギー大転換」

欧州と日本は何が違うか? 

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 EUは2014年10月に2030年温室効果ガスを2010年比で40%とする提案を行い,さらに2050年60%削減という目標を検討している。その背景にはエネルギーの安定供給,環境保全,国際競争力の確保という3つの戦略目標がある。とくに,エネルギーの40%は熱分野であり,1次エネルギー供給のうち25%近くが損失しているという事実を踏まえて,EUレベルでの「熱戦略(Heat Strategy)」を作成する方向に動いている。

 このほど,ブラッセルで開催された「暖房と冷房―エネルギー転換」に関する会合(2015年2月26日,27日)は,200人以上の関係者を集めてこの課題を集中的に議論した。脱炭素化の技術開発を促進し,廃熱の有効利用,蓄熱の利用などをめざし,関係者の協議を行い,融資面での制度化を行い,既存設備・建物のイノベーションを促進する制度化を追求し,経済成長と雇用を繋げる戦略を検討し始めている。ドイツの「エネルギー大転換」もその流れの中に位置づけられ,EUとドイツの政策の相互浸透が見られる。

拡大2月に行われたEUの「暖房と冷房、ヨーロッパのエネルギー転換」会議。ブリュッセル。

熱エネルギーの転換を

 EUの責任者は,こう述べている。熱エネルギーはどこにでもある。ヨーロッパのエネルギー使用の半分はそれで説明がつく。交通と電力の合計に匹敵するエネルギー使用である。そのわずか15%が再生可能エネルギー由来に過ぎない。私たちは,住宅や商店,事務所を暖房するのに熱を使い,また日常生活で着たり,触れたり,食べたり,飲んだりする,使用するほぼ全てのものを私たちに提供する産業を加熱するためにも熱を利用する。 私たちは建物と産業という2つの主要部門で熱を使う。私たちが消費するガスの2/3は暖房のためである。

 それ故,ヨーロッパで私たちが直面するいかなるガス危機も現実には熱危機なのだ。まず建物の場合を取り上げよう。私たちの建物の約40%が,1970年以前の最悪のエネルギー性能標準に基づいて建設された。多くの加盟国で,多くの建物の建築時期が1920年以前に遡る。そのような建物は,2010年以降に建設された建物に比べ,10倍以上のエネルギーを消費する。それゆえ私たちは,そのような老朽建築を暖房するために毎年数十億ユーロを投じていることになる。改築の割合をスピードアップさせなければ,私たちの効率及び気候目標達成の機会は失われる。

ドイツにおける「エネルギー大転換」の展望

 それでは,ドイツ自身は「エネルギー大転換」について,どのような展望を持っているのだろうか。このほど(3月2日),ベルリンの環境省で行われた日本環境省とのミニWSで担当者は,環境省と経済エネルギー省の取組を次のように述べた。再生可能エネルギーは電力比で25%を超えたが,温室効果ガス排出も増加したのは,褐炭発電のためであり,余剰分はオランダなどへ電力輸出された。温室効果ガス排出を約2千2百万トン減らす必要がある。そのため気候変動国家計画をつくり省エネで2020年40%削減を目指す。全ての関係者の参加,熱と交通分野・建物分野の省エネ推進,EUETS(排出取引制度)の改善に取り組むという。

 経済エネルギー省側は3つの焦点について述べた。第1は2014年のEEG改革であり,再生可能エネルギー固定価格買取制度の改革で買取価格を低減させながら,いかに再生可能エネルギー導入を図るかである。第2はトップランナー制度の導入などによる省エネの促進であり,第3は送電網の拡大である。2022年夏には再生可能エネルギーのみにより電力を賄えるように,送電系統整備,フレキシブルな発電,スマートグリッド,蓄電などを整備する必要があるという。

原発再稼働を前提の日本のエネルギーミックス論~脱原発に進まない理由

 ベルリン自由大学でおこなわれた「世界におけるエネルギー大転換」WSは,3月4日と5日の二日間にわたり,40名近くの参加で24本の報告があった。2013年3月に行われた日独会議に続き,ドイツと日本における脱原発とエネルギー大転換を中心に,グローバルな視点からの「エネルギー大転換」を比較検討した。

 会議では,まず私が「日本のエネルギーミックス議論の前提」として,最近の日本における原発を含むエネルギーミックス論を批判的に紹介し,原発再稼働を前提とした再生可能エネルギー買取制度の後退について説明する一方,地域からの再生可能エネルギー拡大と地域再生への取組について北海道の事例を分析紹介し,日本がドイツから学ぶべき点とドイツが省エネの取組などを日本から学べる点について提案した。

 本田宏教授(北海学園大学)は,日本が脱原発の方向に進まない制度的要因について,国際的な政治レジームの視点から,原子力の民生利用の歴史,国家の関与の程度,放射能の安全防護の国際的体制などの側面から分析した。

 関連して,ヘルムート・ワイトナー博士(ベルリン自由大学)は,「福島の困惑:なぜ政治的ショックの波が東京よりもベルリンで強かったのか?」と題して,福島原発事故をきっかけに最終的に脱原発を決めたドイツと日本との政治制度比較を行った。とくに経路依存性,政治的能力形成,政治的機会の利用の側面,とくに認識論的戦略能力の視点が強調された。

 日本は「ハイテクで低炭素」を描くのか

 ミランダ・シュラーズ教授(ベルリン自由大学環境政策研究所長)は,「低炭素エネルギー転換と気候変動交渉」という立場からアメリカ,中国,EUそして日本の政策について比較分析した。

拡大3月にベルリン自由大学で行われた「世界におけるエネルギー大転換」で報告するマーティン・イエニッケ教授(国際高等サステナビリティー研究所)

 とくにウクライナ問題によるエネルギー供給安定性の問題が浮上し,石炭への依存度がドイツとポーランドで増している一方,日本などのハイテク指向の低炭素化戦略について批判的に紹介した。関連してマーティン・イエニッケ教授(国際高等サステナビリティ研究所)は「国際的関連におけるドイツのエネルギー大転換」について,とくに人口比で大きな中国とインドの省エネと再生可能エネルギーに注目して, ・・・ログインして読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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