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これでいいのか? 文科省・研究不正ガイドライン

根本から考えようとする米国、付け焼き刃の対応を繰り返す日本

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」が今年4月1日から適用となった。2006年に文科省の科学技術・学術審議会の特別委員会がつくったガイドラインが、13年8月からの文科省内の集中検討を経て見直され、昨年8月に新しいものに改定された。文部科学大臣決定された新ガイドライン(旧版は大臣決定ではなかった)が、半年超の準備期間を置いて適用スタートとなったわけである。

今年の米科学振興協会(AAAS)年次総会の入り口。地元の高校生たちも気軽に訪れる。ファミリーデーには親子連れで会場が賑わう=2015年2月、米国サンノゼ

 研究不正は日本だけの問題ではない。米科学振興協会(AAAS)が今年2月にサンノゼで開いた年次総会でも、対応を議論する分科会があった。そこでの議論を聞いてから改めて新ガイドラインを見てみると、いかにも付け焼き刃であり、しかも国からの「上から目線」が目立つ。「政府の介入は避け、科学者コミュニティで対応する」というコンセンサスがある米国との落差は余りに大きい。

 新ガイドラインの「はじめに」は、説教のオンパレードである。「科学研究における不正行為は、・・・許すことのできないものである」「このような科学に対する背信行為は、・・科学コミュニティとしての信頼を失わせるものである」「・・研究に携わる者は皆自覚しなければならない」。

 第1節の「基本的考え方」では、研究者自らの自己規律に任せるだけでなく、大学などの研究機関が責任を持って防止策に取り組むようにと促す。第2節は、防止策の取り組み方を示し、第3節で「特定不正行為」を定義し、告発の受付窓口を設置するなどの対応策を示す。第4節が不正認定された場合の取り決めで、第5節で文科省の今後の任務を示す。任務とは、必要に応じてガイドラインを見直す、ガイドライン通りに研究機関がやっているか状況調査し指導・助言する、研究倫理教育の標準的なプログラム開発の推進、研究機関における調査態勢の支援、の4つだ。

 何が「研究不正」にあたるのかは、常に議論のあるところだが、第3節では2006年のガイドラインと同じく、捏造(存在しないデータ、研究結果等を作成すること)、改ざん(研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、結果等を真正でないものに加工すること)、盗用(他の研究者のアイデア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること)の3つだけを「特定不正行為」、つまりこのガイドラインの対象となる行為、とした。ただし、2006年版では「故意によるものではないことが根拠をもって明らかにされたものは不正行為には当たらない」と書かれていたのが、「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる」3行為も含むと変更した。

 この点を

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