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持続可能な東京五輪は可能か

ロンドン五輪の独立監視委員会議長、マッカーシー氏に聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックは、「近代五輪史上、最も持続可能な大会」を目指した。メーンテーマは「地球1個分のオリンピック」だった。
 この目的を実現するために、05年の招致成功後の07年につくられたのが、五輪史上初の独立の監視委員会「持続可能なロンドン2012委員会」である。
 計画策定から実施に至るすべての過程で、「地球1個分のオリンピック」という約束がきちんと守られているかを、保証するのが役割である。環境NGOや大会運営機関の間に立って、担当大臣、大ロンドン市長、組織委員会のトップからなるオリンピック委員会に、直接、意見を言える権限を持っていた。
 15年4月にシンポジウム「東京はロンドンを超えられるか-より持続可能なオリンピックをめざして-」(WWFジャパン、自然エネルギー財団主催)が開かれ、共同声明が発表された。この機に来日した持続可能なロンドン2012委員会元議長のショーン・マッカーシー氏に、持続可能な大会にするために2012委員会が果たした役割と独立した監視機関の必要性、2020年の東京大会への助言を聞いた。

ショーン・マッカーシー(アクション・サステナビリティーディレクター、持続可能なロンドン2012委員会元議長) 06~13年に2012委員会議長。現在は、持続可能なサプライチェーンの普及促進を目的に活動するコンサルタント会社の代表。このほか英国内の建設業界の持続可能性能力向上を目指す共同イニシアチブ「サプライチェーンスクール」議長、ロンドン交通局の安全・サステナビリティー部会顧問、ロンドン市長の諮問機関「ロンドン持続可能な開発委員会」委員も兼ねる。13年には、持続可能性推進とロンドン大会への貢献に対して、英国女王から大英帝国勲章を贈られた。

ショーン・マッカーシー氏拡大ショーン・マッカーシー氏
 ――独立した監視委員会は、だれが、どういう理由で、つくることにしたのか?

 ロンドン大会は、招致活動の中で最も持続可能な大会を標榜し、独立した持続可能性委員会をつくるということも約束していた。グリーンウォッシュ(環境に配慮をしているように装うこと)を避けるためだ。約束に書いているからといって、実行できるかどうかは別問題だが。
私は招致のプロセスから責任を負っていた。2005年7月にロンドンが招致に成功した後、06年の夏までに監視機関の枠組みづくりを進め、その年の10月に議長に就任、07年1月に首相も参加して2012委員会が正式に発足した。

 ――2012委員会にとって最も重要な仕事は何だったのか?

 判断するということだ。持続可能性には、いろいろな人がかかわっている。NGOからの信頼を獲得することも必要だし、様々な大会運営団体から信頼され、その人たちをまとめるのも大事だ。秘密情報を知った上で、正直な助言をする役割も持っていた。日々判断を下すというのが、最も大事な仕事だった。

 ――五輪史上初めての独立した監視委員会があったことで、ロンドン大会は何が変わったのか。委員会がなければ、何ができなかったのか。

 委員会は前例のないユニークな組織だった。私たちは、すべて発明していかなければならなかった。非常に強い政治的な支援、リーダーシップがあったからできた。私が報告を上げる相手は、ロンドン市長や担当大臣だったが、独立した意見を評価してくれた。その上で関係する団体を説得して、彼らの信任を得ていった。NGOには「新たな役所の組織ができて、いろいろなことを隠蔽するわけではない」と説得しなければならなかった。大会運営機関に対しては、「我々は倫理的で正しい行動をする信頼できる組織だ」と説得しなければならなかった。

 ――なぜ、政府はこのような組織が必要だと考えたのか。

 招致委員会ができた2003年、招致の中心になった人たちは、大会が開かれる2012年には、環境や持続可能性が非常に大事になるだろうと予見した。スタート時から持続可能性の重要性を認識して、メーンテーマにした。そのためには、独立した組織が必要だと考えたのだろう。

 ――持続可能な五輪のためには、どの大会でも独立した監視委員会は必要だと思うか。

 そう思う。英国の例で示されているように、この組織は付加価値になると思う。NGOと独立した形で対応することが可能になったこともそうだし、大会運営機関に対しては独立性のある助言を提出することができたこともそうだ。大会運営機関がNGOと直接対応するには、努力と時間が必要だ。本来やるべき仕事に影響を与える。独立した監視委員会があることで、運営機関は大会運営に専念できる。大会の運営は効率性がポイントだ。監視委員会は、IOCが要求しているわけではない。だが、このような組織は、大会運営に付加価値をつける面で意味があったと思うし、これからの大会でも必要になってくるだろう。

 ――東京には、同じような組織はまだないが、つくるべきか。

 このような監視委員会は、大会組織委員会にも大きなメリットをもたらすと思う。東京の招致の約束には、諮問委員会をつくるということが入っていたが、まだ助言する委員会はつくられていないそうだ。そのような役割の組織ができれば、付加価値が生まれる。日本では、行政関係の会合を持ったが、彼らもこの種の組織があることのメリットを理解し始めているように感じた。

 ――日本ではNGOの委員会もできていない。招致委員会の中にも、NGOの声はほとんど反映されていないと思う。

 NGOはそもそもまとまりにくい。持っている目的も違うし、必ずしも協力しやすい人たちばかりではない。リオの大会が終わると、世界の注目は東京大会に集まる。マスコミも、NGOも、「次は東京」となるだろう。スポーツ用品産業のサプライチェーンにおける人権問題を扱うNGOの例を挙げよう。彼らの意見に耳を傾けないと、やっかいなことなる。いまはリオに目が向いているが、終われば必ず東京に向かう。

 国際環境NGOのグリーンピースは五輪大会が終わると、「グリーンゲームウォッチ」という報告書を出すが、ロンドンについては出さなかった。監視委員会があったために、グリーンピースは必要ないと判断した。彼らの意見に耳を傾けられないとなると、NGOはまとまってくるし、問題になることもなりうる。彼らに勝手にいいたいことを言わせるよりも、このような監視委員会がフェアにNGOと対応する方が、よりよい解決策になると思う。

 ――このような組織をつくるには、政治的なサポートが欠かせない。日本の場合は、政治的なサポートがないように感じる。

 もし政治的なサポートがないとしても、NGOと大会運営機関との関係性は発展していかなければならない。政治的なサポートがなければ、NGOが勝手にまとまって、真空状態を埋めてしまう。NGOが勝手にまとまるのは、運営機関にとって必ずしも望ましいことではない。なぜなら、NGOはそれぞれのキャンペーン目的を持っているからだ。私たちのような組織があるということは、運営機関にとってメリットが大きい。政府のサポートがなくてもやれることがないわけではないが、できることには限りがある。ただ、まだあきらめるべきではない。日本には、まだチャンスはある。

 ロンドン大会では、独立委員会をつくってステークホルダーを取り込むようにしたが、それでも何らかの対立は避けられなかった。適切な形でNGOを取り込み、NGOと一緒にやっていくという体制が整わないと、独立委員会をつくるかどうかということと関係なく、対立や悪い関係が生まれてしまう。それが大会の失敗につながるようなことはないと思うが、大会の名声や評判が相当傷つくのは確かだ。日本は、ロンドンに続いて先進国で2度目の大会になるのだから、NGOとの関係に失敗して混乱が生じるようなことになると、面目を失うことになりかねない。 ・・・ログインして読む
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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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