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日経エレクトロニクスにミスリードされるな

ムーアの法則は終焉を迎えてなどいない

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 日本の半導体メーカーは、自分の頭で考えて判断せずに、雑誌や新聞の情報を鵜呑みにして経営している気配がある。そのように考えるエピソードを以下に示す。

雑誌を見て経営している日本半導体メーカー

 2000年を境に、エルピーダ1社を残して日本半導体メーカーは半導体メモリDRAMから撤退し、デジタル家電などに使う半導体のシステムLSIに一斉に舵を切った。しかし、システムLSIで成功した日本半導体メーカーは一社もない。失敗の代表例が、経営破綻寸前となって産業革新機構等に買収されたルネサス エレクトロニクス である。

 そのルネサスの幹部が、「日経マイクロデバイスなどの雑誌が、日本はDRAMをやめてシステムLSIをやるべきだという記事を書きまくった。それが日本をミスリードしたのだ」と目に涙さえ浮かべて訴えたことがある。

 この発言に私は非常に驚いた。日本がDRAMから撤退してシステムLSIを選択したのは雑誌のせいであり、そのシステムLSIが失敗した責任を雑誌のせいにしようとしていたからだ。

 因みに、日経マイクロデバイスは半導体専門誌で、2010年1月号を最後に休刊となり、半導体の記事はその後、日経エレクトロニクスに掲載されることになった。

 その日経エレクトロニクスが2015年4月号で、またぞろ日本の半導体メーカーをミスリードしそうな記事を書いてくれた。記事のタイトルは「さらばムーアの法則」。私としては看過することができないので、本記事の間違いを指摘し、正しい内容を示したい。

「さらばムーアの法則」の根拠とは

 ムーアの法則とは、1965年に米インテルの創業者の一人、ゴードン・ムーアが提唱した「半導体のトランジスタの集積度は2年で2倍になる」という法則である。

 集積度を2倍にする際、トランジスタなどの素子の寸法が変わらなければ、半導体チップが巨大化していく。そうならないように、集積度の向上とともに、トランジスタの寸法を微細化する。つまり、実質的にムーアの法則を牽引しているのは、微細化なのである。

 その「微細化に急ブレーキがかかり、その結果、ムーアの法則が終焉を迎えつつある」というのが、日経エレクトロニクスの記事の内容である。その根拠となっているのは、

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