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エネルギーミックス、決め方が問題だ

業界、政府がすり合わせ、審議会が追認……

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 「原子力の利用やその終結、他のエネルギー生産の形態への切り替えに関する決定は、すべて社会による価値決定に基づくものであって、これは技術的あるいは経済的な観点よりも先行している。」(2011年5月、邦訳『ドイツ脱原発倫理委員会報告』大月書店、2013年)

 今回、日本政府が決定しようとしている2030年の電源構成(エネルギーミックス)に欠けているのは、福島原発事故を経て脱原発を最終的に裏付けたドイツの安全なエネルギー供給に関する倫理委員会の上記のような立場である。

 そもそも、短期的な「経済コスト」を根拠にエネルギーミックスを決定するというのは、「決め方」に根本的な問題がある。2011年の福島事故を受けて、当時の民主党政権は、2012年夏に、まがりなりにもエネルギーを巡る「国民的議論」を組織して、2030年代の脱原発を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」を決めようとしたが、その後の政権交代で、実現できなかった。

可能な限り「原発を増やす」のか?

今回の決め方は、相変わらずの「審議会」方式で、経済産業省と電気事業連合会・日本エネルギー経済研究所などが「すり合わせ」を行い、下案をつくり、それを審議会が追認するという方法で、福島事故以前と全く変わっていない。パブリックコメントで出された意見も、審議会で議論されることはほとんどない。

 しかも、今回のエネルギーミックスを巡る議論は、昨年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」によりも後退した内容となっている。「原子力への依存度は可能なかぎり低減し、再生可能エネルギーを増やす」という基本計画の内容は、今回、可能なかぎり原子力を増やし、形式上、再生可能エネルギーがそれを少し上回るという方針に変わっている。

 このことは、例えば、「原子力で20%から1%でも2%でも上積みできるかが勝負だ」議論が始まった1月経産省の幹部は力を込めた」(『日本経済新聞』2015年4月29日付け)と報道されていることからも明らかである。

風力はほとんど増えない設定 

エネルギー需給の長期見通しを検討するとされながら、電源構成を中心に議論を行い、熱エネルギーの扱いや省エネの可能性については、本格的な検討はほとんど行われていない。長期見通しという面では、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の費用負担のみが強調されているが、2030年という時点に立てば、2012年から始まり、20年間続く制度は、ほぼ終わり、買取価格は低減するはずである(『日本経済新聞』2015年4月29日社説参照)。

 にもかかわらず、「ベースロード論」が強調され、再生可能エネルギーは不安定電源でコストが高いというキャンペーンが張られたのである。福島事故で明らかになったのは、原子力こそ不安定電源であるという点である。

拡大世界の風力発電導入量は大きく増え続けている。2014年末はさらに5000万kW増え、3・69億kWになった。日本は風力発電所の建設に障害が多く、約278万kWにとどまっている。世界風力エネルギー協会による。

 しかし今回の原案によれば、再生可能エネルギーの中では、太陽光に比べて風力発電はほとんど現状のままで「再生可能エネルギーの最大限導入」などとはとても言えないものである。

 日本風力発電協会は、2030年の風力発電の導入目標を国内発電量の約8.5%に相当する3620万kWに設定しているが、今回の提示された案では1.7%に過ぎない。既存の設備と環境アセスメントの手続き中の設備を足し合わせただけでも、すでに目標値の大半を占めるという(『北海道新聞』2015年4月29日付け)。

社会的価値の観点が重要 

環境省は再生可能エネルギー比率を最大35%にできるとの試算を4月に公表し、自民党の再生可能エネルギー普及拡大委員会も導入目標を30%以上とする提言をまとめた ・・・ログインして読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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