「クリーンコール」への固執は国を誤る
2015年06月04日
5月21日の夜、都内で開かれた国際交流会議「アジアの未来」の晩さん会で安倍首相が行った講演について、日本のメディアが報じたのはもっぱら「アジアへの投融資を3割増する」という部分だった。しかし、この夜の首相のスピーチには、もっと注目されるべき内容が含まれていた。それは、アジアのエネルギー問題に関するくだりである。
「アジアの資源とも呼ぶべき、石炭を、もっと効率的に活用してはどうでしょう。石炭火力発電は、世界の発電量の4割を担うにもかかわらず、地球温暖化の元凶のように言われ、敬遠されがちです。しかし、それもまた、イノベーションによって、解決できる問題です」
こう切り出してから安倍首相が語ったのは、「日本の高効率石炭火力発電の技術を使えば、世界の温暖化対策にも貢献できるし、アジアのエネルギー需要を満たすことができる」という「クリーンコール」の夢である。その夢が、いかに現実と異なる幻想かは、この後書くが、その前に安倍スピーチを海外メディアがどう報じたかを見てみよう。
AP通信の東京駐在記者が世界に配信した第一報のタイトルは、「石炭、医薬、鉄道が東京のアジアインフラ計画の優先事項(Coal, medicine, trains top Tokyo's Asia infrastructure plan)」というものだ。この記事は、日本のメディアが見逃した、この講演の石炭賛美の問題点をきちんと指摘している。
「中国も含めて世界の他の国が石炭から手を引こうとしているときに、日本は深刻な汚染のもとになるこの化石燃料への新たに熱狂に身をやつしている。自然エネルギー整備のために使ったほうが有効だという批判にもかかわらず、日本は国内においても海外においても、石炭火力発電所建設に資金を提供している」
安倍首相のスピーチの中に出てくる石炭火力に関する日本のイノベーションとは、経済産業省や電力会社が福島原発事故以降、「高効率石炭発電」「クリーンコール」と称してさかんにアピールしている「石炭ガス化複合発電(IGCC)」や「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」のことだ。
これらの発電方式は、確かに現在日本で主流の石炭発電や、アジアの国々で多く使われている一昔前の方式に比べれば、二酸化炭素(CO2)排出量が多少は少ない。しかし、今日普通に使われている天然ガスコンバインド発電に比べれば、同じ量の電気を発電するために2倍程度のCO2を排出するのだ。
図をご覧いただこう。
これは経産省自身が、エネルギーミックスを検討する小委員会に提出した資料である(総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会(第5回会合)資料3「火力発電における論点」)。現在使われている天然ガスコンバインド発電の排出係数が、約375g/kWhであるのに対し、そのとなりにある2020年代の実用化を目指しているIGCCは約700g/kWhである。
安倍首相は、今回のスピーチの中で、
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