世界はどう受け止め、どう行動したのか
2015年06月17日
「研究室に女性がいると面倒が起こる。男性が女性に恋をする、女性が男性に恋をする、そして女性を批判すると泣き出す」と公の場で発言した英国のノーベル賞学者ティム・ハント氏(72歳)が、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)生命科学部の名誉教授を辞しただけでなく、欧州研究評議会のアドバイザーも辞任した。英ガーディアン電子版によると、ご本人は「こちら側の事情を聞こうともしない学術界によって干された」と嘆き、妻で同じ大学で生命科学を研究するマリー・コリンズ教授は「彼は家事もよくやるし、料理も上手。単にバカなことをしょっちゅう言うだけ」とかばった。しかし、科学ジャーナリストたちは、これが「単なるジョークでは済まない」ことを短時日のうちに明らかにした。
2001年に細胞分裂の研究でノーベル医学生理学賞を受けたハント氏が問題発言をしたのは、ソウルで6月8日から11日まで開かれた第9回科学ジャーナリスト世界会議の初日のことだ。科学技術の世界にもっと女性を増やそうという趣旨で韓国女性科学技術者連盟が開いた昼食会の場だった。午前中に講演したハント氏は挨拶を求められ、「私は男性至上主義者(ショービニスト)という評判を取っている」と切り出して、この記事冒頭の発言とともに「だから、研究室は男女別々の方がいい。女性の邪魔をしたくない」と言ったという。
私自身は世界会議に分科会スピーカーとして参加したものの、この昼食会場に行ったときは満席で入れず、やむなく近くのレストランで食事をとった。そして、その日の午後に参加者から「ひどい発言があった」と憤りの声を聞いたのである。
この後の展開は早かった。昼食会場にいたロンドンシティー大学のコニー・セントルイス科学ジャーナリズム研究科長がツイッターで「英国王立協会のフェローであるサー・ティム・ハント」の発言を紹介し、最後に「このノーベル賞学者は我々がまだビクトリア時代にいると思っているの???」と書いた。すると、世界中に瞬く間に拡散。女性研究者たちは「こんなにセクシー」とハッシュタグをつけて、真剣に実験や調査に取り組む写真を投稿するなど、ユーモアを交えて反撃した。いわゆる「炎上」状態になったわけである。
英国王立協会は翌9日、「科学は女性を必要としている」と題する声明を公表、伝えられているハント氏の発言は協会の考えとは異なると表明した。
ハント氏はソウルでの英BBCラジオの取材に対し、「本当に申し訳ない」と謝罪したが、「こんなことをジャーナリストの前で言うなんてホントにバカだった」と付け加え、「正直に言っただけ」とも話して、「まったく謝罪になっていない謝罪」とさらなる批判を招いた。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンは韓国から帰国した氏に名誉教授職から退くことを持ちかけ、氏はこれを受け入れた。さらに欧州研究評議会の理事も辞任した。皮肉なことに、この評議会が彼を韓国の会議に送り込んだのだった。王立協会の賞選考委員会からも退いた。
私自身は王立協会及び大学の素早い反応に感心してしまった(何しろ日本学術会議や日本の大学がこんなに迅速に対応するとは考えられない)のだが、セントルイス氏から見れば対応は不十分なものだった。とくに
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