米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ツチアケビが採用した常識はずれの繁殖戦略
みなさんは dust seed という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本語に訳せば、ほこり種子。ほこりのように小さくて大量につくられる、ランの仲間の種子の代名詞だ。できた種子をどのようにまくかは、植物の繁殖戦略の中でも一番のポイントだろう。ランの果実は、熟すと乾いて割れる蒴果という区分に入るものがほとんど。その中にできた小さなランの種子は、基本的には風に舞って飛ぶ風散布種子という部類に入るとみなされてきた。
ところが、そんなラン科植物の中に種子の散布を鳥に依存する仲間がいることを、京都大学の末次健司・白眉センター特定助教たちが初めて報告した(Nature Plants, Published online 05 May 2015)。報告を目にした時、砂粒よりもはるかに小さくてサラサラしたランの種子を見た以前の記憶がよみがえり、「えぇっ~」と思わず声が出た。
種子が鳥散布だと報告されたランは、ツチアケビと呼ばれる。秋の山で実るアケビの果実に似た、丸くて長くジューシーな液果をつけることが、和名の由来だろう。液果は赤くたわわに実り、大量にぶら下げられたウインナーソーセージに似ている、という人もいる。ツチアケビの果実は割れないし、種子のサイズもランの仲間としては大きめだ。だからランの中では不思議な存在であり、鳥が種子散布するという話は30年以上前からささやかれてきた。だけど、目撃談はあっても、誰も証拠となるデータを示して報告していなかった。
そんな長年の謎に興味を感じた末次さんは、秋から冬にかけての時期、滋賀県内の林床で果実をつけたツチアケビの前に、生き物の動きに反応する自動撮影カメラを設置し、のべ2427時間にわたって、そこへ鳥などが現れると撮影できるようにした。
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