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ブルームバーグ予測「日本、太陽光が原発を抜く」

本当にそんな2030年がくるのか? 政府のエネミックスは「希望的観測」か?

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 経済産業省は7月、「2030年時点での日本の電源構成」の見通しを決めたが、内容について「原発の再稼働見込みが大きすぎる」などの批判が続いている。そんな中で米国の大手金融経済情報サービス会社のエネルギー市場調査部門であるブルームバーグ・ニューエナジーファイナンス(BNEF)が行った分析、予測が注目されている。ブルームバーグは「30年には太陽光発電が原発の発電を抜く」という、あっと驚く日本の未来図を描いた。

拡大2030年の予測の比較。日本政府とブルームバーグ(BNEF)

2030年、太陽光発電が電気の11・6%

 分析はBNEF駐日オフィスが中心になって行った。2030年時点での、日本政府とブルームバーグの予測の数字をグラフに示す。

 火力発電(石炭、ガス、石油)の総計では、両者はあまり変わらない。政府予測56%、BNEF65%。しかし、BNEFは石炭が少なく、天然ガスが大きくなっている。

 大きく異なるのは原発だ。政府が20~22%なのに対し、BNEFは8・9%と小さい。自然エネではBNEFは太陽光を11・6%と大きく見積もっている。政府の見積もりも7%とかなり大きいが、それも大きく超える。

 「日本では2030年には太陽光発電の量が原発を大きく抜いている」ということになる。原発中心の日本のエネルギー政策を見続けてきた筆者のような者には驚き以外の何ものでもない。

 日本の太陽光発電は2012年のFIT導入で大きく伸び、14年末段階での累積導入量は2330万キロワットになった。ドイツ、中国に次いで堂々の世界3位だ。これによって14年度の発電量も日本の総発電量の約2・5%になったとみられる。

 この急伸にあわてて電力業界と政府は、昨年、導入を抑制する方向に舵を切った。しかし、BNEFはそれでも太陽光は伸び続け、30年の設備量が6400万キロワット、発電量割合で11・6%になると見ている。なぜそう考えるのか。

 BNEFは市場性やコストを重視している。太陽光について、BNEFは「政府の予測には公的支援がなければ太陽光発電は導入されないという暗黙の仮定が置かれている」とみる。政府は、太陽光はまだコストが高いので、補助がなければ増えない、つまり、政策で導入をコントロールできると考えているということだ。

 しかし、BNEFは違う考えだ。多くの国ですでに屋根設置型の太陽光発電でも発電コストが電力会社から買う電気料金より安くなり、インセンティブがなくてもどんどん増える状況に来ている。日本でも今後発電コストが下がり、導入を抑える新たな規制がない限り、どんどん増える時期に入るだろう……。太陽光は「一人歩き」を始めるということだ。

 ただ、太陽光以外の自然エネの予測では、政府とBNEFはよく似ている。日本の風力発電の発電量は現在約0・5%と小さいが、30年時点でも相変わらず小さいと両者はみている。風力が自然エネの主流になっている世界の常識からみれば異常といえる低い数字だが、環境アセスに3~4年もかかるなど日本には独特のハードルがあり、これらが導入をさまたげるとみている。

 地熱発電も伸びない。日本では「日本は火山の国、地熱発電の資源量は世界3位」などと言う割には、行政などは実際の地熱発電所建設のための障害を取り除く努力をあまりしないので伸びていないし、今後も伸びない。

原発はあまり再稼働せず、発電比率は8・9%止まり

 原発の再稼働について。43基の原発のうち九州電力・川内原発の1基だけが動き出した状態だが、BNEFは今後多くの原発が再稼働するのは難しいとみている。3つのシナリオに分けて検討している。

A:悲観的シナリオ。今後2年間で12基の原発が再稼働する。
B:ベースシナリオ。今後3年間で26の原発(2440万キロワット)が再稼働。
C:楽観的シナリオ。建設中の2基を含め37基の原発(3590万キロワット)が再稼働する。

 このうち、おおむねベースシナリオで2030年に8・9%になるとみている。政府予測では「30年に原発で20~22%の発電」を達成するとしている。これには3740万~4110万キロワットの原発の稼働が必要だが、これはBNEFの「楽観的シナリオ」でも足りない。多くの原発の「運転延長」が必要になるので無理だろうとみている。福島事故以降の原発反対の機運や安全対策への追加的な支出も必要であるからだ。

 そこで原発の不足を補うものとして、天然ガス火力の割合が増える(42・2%)と予測している。この数字は現状に近いものだ。

 さて政府とBNEFの予測。どちらが「当たる」だろうか。政府はエネルギー政策をつくる権限とお金をもっているので、「政府がやろうと思ったらたいていのことはやれる」ともいえる。実際、日本政府の見通しは、今の市場動向などから考えるというよりも、「こうしよう、こうすべきだ」という政治的な方向性が強い。

拡大日本政府とブルームバーグ(BNEF)の2030年の発電コスト(LCOE)の比較。1kWhあたりの値で表せば、太陽光はBNEFが8・9~11・9円、政府が11~15・6円。陸上風力はBNEF:8・5~12・2円、政府:9・8~21・5円。風力の見方が大きく異なる。

 しかし、そうはいっても原発の発電コストの高騰や、自然エネの増加、コストの下降といった世界の潮流もあるので、政府の思い通りになるわけでもない。

政府の数字は「希望的観測」か

BNEFは政府の予測を「矛盾する政治的目標~政治的に優遇されている石炭火力発電と原子力発電を守ると同時に、より少ない二酸化炭素排出を達成すること~を調整する試み」と指摘し、「達成への道筋は『希望的観測に基づく政治』(wishful politics)である」といっている。平たくいえば「無理がある」ということだ。

 筆者も政府予測は、世界の動きや各種電源の発電コストなどから考えて相当に無理をしていると思う。

 振り返ってみると、1990年代から、政府のエネルギー政策、とりわけ「原発の建設数」はたいてい「希望的観測」だった。その姿勢は福島事故後においても変わっていない。

 「願望の所産」である原発建設数は、これまでも実現してこなかったが、それほど困ったわけではない。では「実現しなくてもいい原発数、電源構成」とは何なのか。

 雑誌「新潮45・6月号」の論考「誰も本気で考えない『原発の未来』」(日吉野渡)に興味深い記述があった。原発の目標(20~22%)について、「内閣官房の関係者」がこう話している。「こんな数字はいつだって変えられるということ。原発を推進していくことを見せればいいだけで、ほかには何の意味もないんだから」

 この言葉は、長い間、日本のエネルギー政策を決める過程と、決めた後の政策展開をみてきた筆者には、現実をかなり正直に表しているように思える。要するにこの程度の重要性なのだ。いってみれば、スローガンのようなもの。大きめの目標で、少々ずれてもかまわない。また次の機会で大きめの原発数を掲げればいい……。

 しかし、時代は変わった。ブルームバーグが世界の潮流をみながら普通に考えれば、2030年には日本でも「太陽光が原発を抜く」時代になっているのだ。政府がいつまでも市場性や世界の潮流と離れたものを掲げていれば、日本社会は大きなコストを払うことになる。

 古い原発維持への過剰な投資、風車製造など自然エネ世界市場での競争の負け……。日本のエネルギー政策の「世界とのずれ」をもう少し本気で考えるべきだろう。

先進国の原発建設は高い

 各電源についての発電コストも日本政府とBNEFの予測は大きく異なっている。例えば、2030年の風力発電のコストについて、政府は極めて高い値を出しているが、BNEFはすでに石炭火力と同等とみている。グラフ参照。

 また政府は「30年時点でも原発の建設コスト、発電コストともに安い」としているが、BNEFはこれにも異論を唱えている。先進国での原発建設は軒並みコストが上がっており、フランスで建設中のフラマンビル原発は1キロワット時あたり約30円、英国で計画中のヒンクリーポイント原発は約18円とみられており、日本政府予測(10・3円以上)より格段に大きくなっている。

 経済情報サービスで定評のあるブルームバーグが今回のような予測を出したことは重要だ。日本では政府がつくる参考資料が審議会にだされ、「それだけ」をもとに議論される。議論の方向性も役所がコントロールしている。「原発がずっと一番安い電源というのはおかしいな」と思っても、資料は一つしかない。

 BNEFのレポートはこうした日本政府の議論の仕方、決め方にも意見を述べている。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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