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五輪エンブレム問題、コピペ警察の横行を憂える

「真の創造性」と「他人のまね」は区別が難しい

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

7月24日の東京五輪、パラリンピックのエンブレム発表会=東京都庁、内田光撮影
 東京五輪のエンブレム盗用問題について、本欄で尾関章さんから名指しで出動要請(?)があった(『五輪「盗用」騒ぎで思う「いい歌は似てくる」心地よさを科学して寛容な著作権論を―下條信輔さん「出番ですよ」』)。またこの件で新しい動きもあった。それを絡めて「似過ぎているから有罪」という風潮に潜む危険性を指摘したい。

五輪エンブレム盗用問題、その後の展開と「第三の可能性」

 新しい動きというのは、当のデザイナー佐野研二郎氏について、別件(サントリービール景品のバッグ)でも盗用の疑いが浮上。佐野氏自身の謝罪を受けてサントリーが一部撤回を発表したことだ(8月13日 、朝日新聞デジタル)。

 特に興味を引かれたのは、盗用された在米のデザイナーが「似ている」としながらも同時に「 デザイン業界では他人の影響を受けながら作品を作る(のが当たり前)」としたことだ。だから法的手段もとらないという。ツィッターなどでも、同業者の擁護論が目立つ。自分たちも提訴されることを心配した保身的態度ともいえるが、より本質的な問題提起とも取れる。

 というのも、盗用問題と言えば普通は「盗用か、偶然の類似か」が問題となる。だが第三の可能性が示されているからだ。つまり「下敷きありのオリジナリティー」を認めるか。難しいのは、「盗用か偶然か」の二者択一ではなくて、こちらの問題だろう。

きわめて現代的な問題

 盗用疑惑はデザインの世界に限らない。最近では、韓国の有名女性作家申(シン)京淑(ギョンスク)氏に、三島由紀夫作品からの盗作疑惑が持ち上がった(今年6月)。ポピュラー音楽でも盗用疑惑はよくある。少し古いが作曲家小林亜星氏が服部克久氏作曲の「記念樹」を訴えた事件は有名だ(1998年提訴)。

 学問の世界でも疑惑は後を絶たず、 小保方問題のような大事件に発展しなくても、頻繁にニュースとなる。だが事件となるのは露骨なコピペかそれに近い場合だけで、事件化しないグレーゾーンは拡大しているのではないか。

 ウェブからのコピペは、今や素人でもできる。またその裏返しで、パターンマッチングによる類似品の検出も簡単だ。実際、分野を問わず、ウェブ上の検索マニアがホイッスルブロワー(=告発者)となるケースは増えている。コピペ文化と「似すぎているから有罪」と断じる「コピペ警察」が表裏で同時に氾濫(はんらん)しつつある。現代のデジタル技術がもたらした、優れて現代的な問題というしかない。

好みを決める過程は共通

 この問題が難しいのは、それが二重の意味で受け手のテイスト(主観)によるからだ。まずそもそも、盗作が問題になるのはほぼ大ヒットした(大きな収益につながった)作品に限られる。また「似過ぎている」のレッテルも、受け手の主観による。

 その上やっかいなことに、このふたつの要素は密接に絡み合っている。受け手の好みの神経・心理的な形成過程に共通パターンがあるとすれば、それにアピールしようとして作る作品も似てきてしまう。

新奇性と親近性の絡みが重要

 「魅力度判断」や「選好形成」の過程は、認知神経科学の

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