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風はだれのもの

北海道で考える。風力発電と環境保全のバランスをどうとるか?

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 北海道の自然と再生可能エネルギーの共存について、情報と知恵を出し合い、開かれた議論をしようと「風はだれのもの?」が開催されました(8月29日、北大、北海道エネルギーチェンジ100ネットワーク主催)。そこで、私は、今考えなければならないトピックスをいくつか提起させていただきました。

 私は、北海道エネルギーチェンジ100ネットワーク委員です。再生可能エネルギーの導入促進の立場であると同時に、自然保護──風力発電でいえば野鳥への影響、景観への影響、人体に対する直接・間接の影響など──の課題に対策を取る必要があると考えています。開発行為にともなうマイナスの影響をできるだけ少なくする必要があるとともに、他のエネルギー源との比較も必要です。

風の利用と環境のバランス 

 火力発電所からはCO2が出ますが、単にそれだけでなく、もし排煙・脱硫装置を動かさなければ野生生物に大きな影響が出るでしょう。原子力発電の環境影響については、東京電力福島第1原発の事故をみれば明らかです。飛び散った放射性物質による影響について日本野鳥の会などによる調査がなされて、学術論文もずいぶん出ています。

北海道・稚内にある風車拡大北海道・稚内にある風車
 再生可能エネルギーが(もし「環境影響が甚大」と判定されて)普及しなかった場合は、省エネをやるしかありません。でも、それにも限度がありますから、火力・原子力・その他に頼らざるを得なくなります。それら電源の自然環境への影響も比較検討しなくてはならないのですが、いかにうまくバランスを取るかは、非常に難しいことです。

 こうした問題では、利害関係者は多岐にわたります。自治体、地元住民、事業をやろうとしている人たちなど、合意形成のためにはそういう関係者が、できるだけ早い段階から意見を表明し、議論に参加することが欠かせません。その前提として、すべての事業計画について、情報をできるだけ公開して透明性を確保することが必要です。

 私はドイツの脱原発や再生可能エネルギーへの取り組みをずいぶん調べてきました。ドイツ政府は、それまで進めてきた放射性廃棄物処理計画をいったん白紙に戻す決定をしましたが、その当事者たちに聞くと、「最大の教訓は、関係者の参加と透明性がいかに大切かということだった」と話してくれました。

 北海道固有の問題としては、まさにこのフォーラムのトピックである「風はだれのもの」が問われる、道北地方でいま、膨大な数の風力発電所の建設計画が進んでいる問題があります。この地域は現在まだ送電線が貧弱ですが、国が2013年度予算で250億円をつけて、新たに送電線を敷くための特別目的会社が設立されました。これをきっかけに非常に多くの風力発電所の建設計画が立ち上がり、すでに環境影響評価の手続きが始まっています。

 ただ、これらのアセス書類を見ても、風車をどこに建てる、とハッキリとは書いてありません。「(地図上に枠線を描いて)この範囲内に建てます」という形で示されているだけです。ようするにこの書類作りが、各社間での事実上の「陣取り合戦」になってしまっています。

 稚内、風力で電気自給率100%以上へ

 アセス書類には「地元意見」が書かれています。それを見ると、地元では立地賛成派が多いようです。反対の声を上げているのは地元ではごく一部で、そのほかは外部の自然保護団体が反対している、という構図になっています。

 道北地方で人口減少が加速していることが背景にあると思います。私は自然写真の撮影が趣味なので、道北も道東もよく旅行しますけれど、この5年ほどに限っても、まだ真新しいような校舎の小学校や中学校が廃校になって、「※※年間、ありがとうございました」と垂れ幕がかかっているという光景があちこちで目に付くようになりました。過疎化が猛烈に進んでいるなかで、新たな経済効果への期待感は強いでしょう。

 稚内の例を見てみましょう。稚内市は風力発電に積極的に取り組んでいる自治体の一つで、工藤広市長は「風力発電基地を目指す」と話されています。自治体自身が発電所を所有していますし、ユーラスエナジー社による大きなウィンドファームには57基の大型風車が並んでいます。さらに今後「天北風力発電」が建てられようとしています。 

 稚内市の資料によれば、現在すでに市域の必要量の85%が風力発電でまかなわれ、売り買いは別にして、物理的には電力が基本的に最初に地元(住民・企業)に配られています。天北風力が完成すれば、自給率は110%くらいにはなるだろう、と予測されています。

北海道北部の風力発電計画の一覧拡大北海道北部の風力発電計画の一覧

 「経済的メリット」──あくまでカッコ付きですが──は、まず固定資産税が年12億円。また法人税・市民税合わせて4億円の税収のうち約25%が再エネ事業によるそうです。

 環境面への配慮に関して、稚内市は2000年に風車建設のガイドラインを作って、地図上であらかじめ「建設が極めて困難な地域」「調整が必要な地域」「好ましくない地域」を定めています。

さらに500~1000基の風車が立つ? 

北海道・サロベツ周辺の既存風車と風車の新設計画拡大北海道・サロベツ周辺の既存風車と風車の新設計画
 ここにある資料は、NPO法人サロベツ・エコネットワークさんが作成したもので、現在までに明らかになっている風力発電所の建設予定を道北一帯の地図に書き込んだものです。これだけの数の計画があるのは、先ほども言いましたが、ここで大規模な送電線新設の計画が進んでいるからです。

 送電線の正確なルートはまだ明らかではありませんが、宗谷地方の中央部にはユーラスエナジー系、日本海側には三井物産・丸紅・ソフトバンク系の送電線が通ります。また宗谷岬は三方が海ですから、風通しがよく、夏でも風車がよく動きます。送電線と風況条件のふたつがそろって、これだけの計画が立てられているのです。全部建つといくつになるか、まだはっきりしませんけれど、500~1000基になる可能性があります。

 環境影響評価は制度が拡充されて、新たに「配慮書」を作ることが義務づけられました。配慮書・方法論・準備書の各段階で住民や知事それに環境大臣が、許認可権を持つ経済産業大臣に意見を言える仕組みです。非常に手間がかかりますけれど、これは問題点を絞っていくプロセスでもあるわけです。

風車の累積がもたらす環境への影響は? 

 一番大きな論点は、累積的影響をどう評価するかということです。これだけ多数の風車を集中的に建てた時の影響をどう見るか。 ・・・ログインして読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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