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ブラインドサッカーで知る五感の本質

人間は五感を「窓」として使って世界モデルを構築する

稲見昌彦 東京大学先端科学技術研究センター教授

 善光寺の『戒壇巡り』を体験したことはあるだろうか?

 信州善光寺の本堂にある階段を降りると墨汁に入ったような真っ暗闇にまず驚く。気を取り直し、指示のままに右手側の壁伝いにソロソロと移動する。移動距離は全く分からず、時間感覚も不確かになる。そのうち先をゆく参観者がガシャガシャ立てた音が周囲を照らす。それが本尊の下にあるという「極楽の錠前」を動かした音と気付き、その音を目指しソロソロと進むと錠前らしき金属に触れる。無論色も素材の種類も分からない。終盤の出口からの光明は、太陽を直視するよりまぶしく感じられる。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感はアリストテレスが分類した人間の感覚とされるが、仏教でも五感に「意根」と言われる意識を加えた六根として我々の感覚は分類されており、般若心経にも登場している。戒壇巡りとは視覚を敢えて断つことにより物事の本質に近づくための修行の一環なのかもしれない。手探り、足探りといった「手がかり」により漆黒の中を移動したことにより、我々が日常的にいかに「目探り」を無意識のうちに行っていたかがあぶりだされることになる。

ブラインドサッカー クラブチーム選手権=超人スポーツ協会提供

 昨日、9月7日は国立代々木競技場でリオ・パラリンピックアジア最終予選として開催されているブラインドサッカーアジア選手権の最終日だった。リオに出場できるのは上位2チームで、その権利を得た中国とイランが戦った決勝戦ではイランが勝った。残念ながら日本はPK戦で韓国に負けて4位に終わった。

 それにしても、アイマスクを装着したプレイヤーがサッカーの試合をしている姿に驚かれた方も多いのではないだろうか。ボールは転がるとカラカラカラと音が鳴り、また、プレイヤーは「ボイ」と声を出すことでお互いの位置を知らせ合う。

 筆者はブラインドサッカーを体験する機会があったが、初心者である筆者が

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