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ドイツに移住して見えてきたこと

4つの研究協会と授業料無料の大学が若者を育成

高部英明 ドイツ・ヘルムホルツ研究機構上席研究員、大阪大学名誉教授

 日本では毎日のように、難民のニュースが流れているようだ。彼らが目指す先、ドイツ。その首都ベルリンの南150kmに位置するドレスデン(旧東ドイツ第2の都市)で研究活動を展開すべく私は8月末から滞在。妻と二人、移住を終えたところである。

図1:ドイツ地図とドレスデン(ザクセン州の州都)

 ドレスデン市の近くに難民キャンプがある。マスコミ報道によると、難民受け入れ反対のデモが行われ、それに対し人道的観点から難民受け入れを叫ぶデモも行われている。とはいえ、街はおおむね平和で、市内の指定されたスーパーに政府支給のクーポンで買い物をする難民も見かける。この難民問題は今年だけの問題ではない。メルケル首相は受け入れに前向きだが、ドイツだけが難民を受け入れることは内政的に難しい。EU全体がどのように難民受け入れ政策で合意できるか、ここ数年の大きな政治課題になるだろう。

 ギリシャ問題では財政再建の要求を冷徹に通したメルケル首相に、イタリア、フランスなどは「ドイツはなんと冷たいのだ」と言った。難民問題では、難民が豊かなドイツを目指していることもあるが、イタリアなどは見て見ぬふりで国境を通過させる。しかし「イタリアは冷たい国だ」という声は欧州では聞こえない。やはり、ヒットラーのトラウマからか、ドイツは何かと非難の対象にされる。経済が極めて堅調なため、やっかみ半分の欧州世論もある。

 本稿では、移住したばかりの研究者から見たドイツという国のありようを報告したい。

ドイツの4つの研究協会

 まず、ドイツの研究機構の紹介を簡単にしておきたい。私は18の研究機構群からなるヘルムホルツ協会に所属する。私が勤めるヘルムホルツ・ドレスデン研究機構(略称HZDR)はドレスデン市郊外の森の中にあり、9つの研究所からなる。元々、旧東ドイツの原子力・加速器に関する秘密の研究所であったことから、四方を森で囲まれた場所に研究機構は位置している。そのHZDRの放射物理研究所に、私は上席研究者として雇用されることになった。機構長は私の15年来の友人で、ドイツ物理学会会長など歴任した科学行政にも詳しいドイツ人。そして、20年ほど前に、私が共同研究していた米国人が所長である。

 私がここで研究するようになったのは、機構長のつぶやきがきっかけだった。「この研究機構は旧東独の研究者も多く、どうしても研究が蛸壺化し、全体としてうまく連携していない。お前のような色々な分野を知っている理論家が欲しくて、適当な人材を探している」と。そこで、「じゃ、俺が来るよ」と相成った。

 研究機構には

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