ITの世に「監視カメラ」があるのを忘れてはいないか
2015年09月22日
安保法案は、あらかじめ決められていたことのように国会を通った。参議院特別委員会の強行採決を見て愕然とするのは、いま私たちが望むと望まないにかかわらず直面している「監視社会」との隔絶だ。世間の現実では、ITによるデータ管理やビデオ映像で「したことにする」という理屈がもはや通らないのに、それを知らぬげに事が進められている。
ひとことで言えば、ITメディアがもたらした透明性に対して、国会議員があまりにも鈍感ということだ。2015年9月17日午後4時半から10分ほど、東京都千代田区永田町1丁目の国会議事堂委員会室で繰り広げられた騒ぎの一部始終はNHKテレビで生中継された。のみならず、ブロードバンド時代の今、私たちは参議院の公式サイトに入って、いつでもこのありさまをフルタイム動画で再確認できる。もしよければみなさんも、このサイトをのぞいてみてはいかがだろうか。委員会名と日付を選び、映像が出てきたら時間表示を「4:00:20」のあたりに合わせると、その場面が出てくる。
混乱のなかで、委員長の言葉はほとんど聞き取れない。後方にいる与党議員が、ヒゲの佐藤正久理事(自民)ら委員長席周辺にいる同僚議員の合図に従って、立ったり座ったりを繰り返している。ただその合図も、身振り手振りが頼りなので、立つか座るかで戸惑っている気配の人もいる。
ところが、朝日新聞9月18日付紙面が伝える鴻池祥肇委員長の説明では、採決の手順としてなされるべきことのすべてが、この間になされたことになっている。すなわち「自民党議員から質疑終局と討論省略、直ちに採決を求める動議が出され」「可決され」「さらに法案と野党3党が提出した付帯決議も賛成多数で可決され」「その後、法案可決の事実などを盛り込む『審査報告書』の作成を鴻池氏に一任することも認められた」という。
公式サイトの映像をみると、たしかに与党席の議員が動議らしきものを読みあげている姿はある。だが、それを委員長がきちんと認識していたようには見えない。だれかがなにかを棒読みしている声を委員長席付近のマイクが拾っているが、その趣旨が議員たちに伝わっているとも思えない。これでは、野党から出た「採決は無効」という主張ももっともだ。
NHKの中継が奇妙だったのは、この光景を画面に映しながら、アナウンサーが「可決されました」と伝えていたことだ。これをもって、とりたててNHKが偏向していると言うつもりはない。翌朝18日付朝日新聞も、ドキュメント欄16:30の項に「怒号が飛ぶなか、採決を行い、安保関連法案が賛成多数で可決される」と書いている。ひとつ言えるのは、政治家もメディアも、国会にあっては「したことにする」という理屈がまだ通用すると信じているように見えることだ。
思いだすのは、かつて国会に「時計を止める」という裏技があったことだ。深夜、議場の時計を止め、前日の日付で審議を続けるのを、少年時代にニュース映像で見た記憶がある。「大人の世界って、そんなものなんだな」と思ったものだ。昨今はマニュアルが至上とされるので、若い世代はそんな融通無碍を認めないだろう。ところが国会では、あたかも特区のように「したことにする」文化が生き延びているのである。
一方、現実社会はビデオ映像が力を発揮する一方だ。
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