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日本の地層は「若すぎる」のではないか

深地層研究センター(北海道・幌延)で放射性廃棄物の地層処分を考える

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 前稿、「風はだれのもの」で、北海道の北部(道北地方)の風力発電計画について、最近の状況を考察したが、もう1つ、全国的な問題として看過できないのが、高レベル放射性廃棄物の処分場問題だ。道北の幌延町は、一時、候補地ともいわれた。高レベル放射性廃棄物の処分場探しでは「国が前面に出る」との方針がだされたが、幌延問題の経緯と深地層研究センターの現状について報告する。

 国は、高レベル放射性廃棄物の最終処分について、「将来世代に負担を先送りしないよう、国が前面に立って取り組むこと」とする新たな基本方針を、5月に閣議決定した。そして10月の1ヶ月間を「高レベル放射性廃棄物の最終処分国民対話月間」とし、全国9都市でシンポジウムを開催する等、地層処分に関する対話活動を積極的に展開している状況である。

 地層処分に関する基本的問題を検討したい。地層処分とは、原子力発電所から発生する使用済み燃料の再処理の際に発生する高レベル放射性廃棄物やTRU(超ウラン元素)廃棄物の最終処分方法の一つである。放射性物質の濃度が高く、半減期の長い放射性物質を含むため、人が触れるおそれのない深部地下にこれを埋設する。しかし、地殻変動帯に位置する日本において、そもそも地層処分が可能かどうか、そして可能ならば、どこが候補地になるかが問われてきたのである。

拡大幌延深地層研究センターでは、地下380メートルのトンネルで高レベル放射性廃棄物の模擬体をつかった研究が進む。北海道・幌延町、2015年7月撮影、朝日新聞

 町議会では土建業者の影響力が強かった 

 私がはじめてに幌延町を訪問したのは、ちょうど「幌延問題」が起き、動燃(動力炉核燃料開発事業団:当時)による調査が強行された後の1986年ごろである。北海道大学の天塩演習林が幌延町の問寒別にあり、学生諸君を連れて、「なぜ酪農地帯が、核廃棄物関連施設を誘致するのか?」という疑問から、幌延町、近隣の豊富町、天塩町などの町役場、農協、森林組合、商工会、土建業者、また各酪農家の聞取り調査を行った。天塩演習林の神沼公三郎先生の紹介で、当時幌延町議会議員であった川上幸男さんの農場も訪問し、学生諸君と一緒に乳牛に触れながら、酪農経営の実際も伺った。冬にも行き、演習林で森林の伐採現場も見学することができた。その時の参加学生が道北の下川町で、いま子供を育てながら、森林関係の仕事を続けている。

 さて、当時の聞取り調査でわかったことの一つは、幌延町が酪農の町とはいっても、町議会のメンバーは土建業者の勢力が強く、町政への影響力が群を抜いていたということである。また酪農業も規模拡大のために、借金を抱えた農家も多く、その負債を減らすために、核関係施設を誘致して、補助金により利子補給する(これは現実には不可能)などというキャンペーンを地元農協などが行っていた。

 しかし、幌延町以外の周辺町村・団体は、施設誘致に反対するところが多かった。こうした状況を実際の聞取り調査から知ることができたのは、私と学生諸君にとって、大変貴重な経験となったのである。その後、何度か幌延町を訪問して、学生の修士論文の研究テーマにさせていただいたりした。

 1990年代に入り、幌延問題は「膠着状態」になり、私も道北地方からしばらく足が遠のいていたが、1990年代末に苫前町の風車(ウインドファーム)の開始を機会に再び訪問するようになり、宗谷岬の57基のウインドファーム、そして幌延町のオトンルイの28基の風力発電機の運営状況を聞きに、新装なった幌延町役場に伺うことにもなった。

拡大幌延町は北海道北端近くに位置している

 その間、2000年には3者協定が結ばれ、2001年には深地層研究センターが作られた。とくに、私どもは、2010年以降、夏に鳥類の写真を撮りにサロベツ原野に行く機会があり、豊富温泉に近いセンターの「ゆめ地創館」の地上施設を見学することもあった。

旧科技庁は過疎地に照準

 幌延町は、道北の利尻・礼文・サロベツ国立公園(湿地帯)に隣接する地域であり、1982年の国際学術連合(ICSU)放射性廃棄物処分委員会のいう貯蔵地・処分地の条件として、(1)活断層、(2)地下水、(3)割れ目、(4)火山、(5)地下資源(将来の採掘の可能性)、(6)地震、のない場所ではない(日本弁護士連合会『高レベル放射性廃棄物問題調査報告書』1990年)。

 酪農地帯がなぜ、放射性廃棄物の最終処分場を誘致したのか? 先にも述べたように、背景として、町政の実権を土建業者が握り、施設誘致による補助金や関連事業を狙っていたこと、、酪農業者も多額の負債を抱えており、補助金を基金にしての負債減額策ができるかのような宣伝があったという事実がある。

拡大地下380メートルでの地下水の浸透を調べる

 地域には、雪印バター工場と北大天塩演習林という2大事業者があったので、自立志向が弱かったという背景も指摘できる。人口過疎地(2400人)なので、動燃側が補償金を払うとしても、総額が少なくてよいという「計算」もあった。当時、科学技術庁の意向を受けて、動燃は、計画を強行しようとし、周辺自治体と北海道知事の反対にあうが、強行姿勢を崩さす、膠着状態となる。そして2000年代に入り、放射性廃棄物を搬入しない「核抜き」の深地層研究センターとして妥協と決着が図られる(滝川康治『核に揺れる北の大地』七つ森書館、2001年)。

 同センターでは、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究として「地層科学研究」や「地層処分研究開発」を行っている。深地層研究計画による幌延町への経済効果は、約10億円(税金、交付金、地元への発注、買い物など)と推定されるが、センターができても、人口は減り続け、3000人台(1985年ころ)から2400人になり、酪農家も84戸に減った。この間2000年以来、町内の土建業者は8社も倒産した。様々な補助金を使った基金だけは増えたが、人口減少には歯止めがかからないのである。

 深地層の研究に関する3者(北海道・幌延町・日本原子力研究開発機構、2000年)協定によって、研究実施区域に放射性廃棄物を持ち込むことはないとされているが、20年というセンターの存続期間が守られるかどうかが今後の試金石である。

幌延では「人工バリア」の研究に重点を置く

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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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