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世界のエネルギー転換を図る米中

年末の気候変動交渉(COP21)に向け、両国の利害が一致

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員

 9月の習近平主席の訪米の際、米中は共通するビジョンで温暖化防止に協力すると宣言した。そのこと自体、地球環境保護の点で大きな進展だが、エネルギー転換に乗り出した中国は、米国にとって巨大市場。米国はそういう認識で中国を取り込んだのだ。 習近平主席の訪米を否定的に見る論調が日本では少なくないが、実は日本が見逃せない図柄が浮かび上がる。 9月25日に発表された両首脳の共同声明から、いくつかの印象深い項目を拾ってみる。

「脱炭素」への共通のビジョン

 まず、両国は2℃を志向する「パリ合意」の実現に向けて協力すると宣言している(共同声明の第2項と第6項)。 さらに注目すべきことは、両国が「世界経済の低炭素化」に向けて世界を変えると宣言したことだ。世界経済を今世紀中に脱炭素化(decarbonization)する目標は、今年6月のG7サミットが決めた。今回、中国は「脱炭素化」と云う用語は使わなかったが今世紀中に世界経済を低炭素化することに同意した。

 両国は、2℃実現へのエネルギー転換に向けた2050年戦略を確立する必要性も認めた。第6項全体を読めば、中国がG7サミットと同じ観念でいることが分かる。中国が脱炭素を指向していることは重要だ。最終目的が決まってこそ有効な政策が打てる。周知のとおり中国では大気の浄化、気候変動防止、エネルギー転換は中国の成長戦略の一部になっている。

 世界の大きな問題を解決するには、大きな構想と目的意識が必要だ。温暖化防止という問題はその最先端に位置する。中国は大きな構想で対応しようとしている。それは最大排出国になった中国としては当然だといえる。しかし、長い過去の交渉の歴史を知る者にとっては大きな展開だ。旧来思考では済まない時代になっていることを示している。

ホワイトハウスで共同会見する習近平国家主席(左)とオバマ大統領=2015年9月24日、ワシントン、ランハム裕子撮影 拡大ホワイトハウスで共同会見する習近平国家主席(左)とオバマ大統領=2015年9月24日、ワシントン、ランハム裕子撮影

資金提供者としての中国の出現

 中国は途上国支援として31億㌦の資金協力を発表した。これは米国の30億㌦と同じ規模だ。米国議会は保守派が抵抗したため、30億㌦の内5億㌦を凍結している。中国の発表は、米国議会の保守派に対するメッセージとして重要だ。中国が不熱心だからという「口実」は使えなくなる。それから2020年に1000億㌦の資金提供という先進国の誓約にも影響がある。 中国が資金提供者となるのはもはや当然だが、先進国の行動にも圧力がかかる。今までなかった新しいダイナミズムが生まれて来た。

 さらに、中国はこの資金で自国の再エネ技術の海外移転を拡大するだろう。アジア・インフラ銀行などの融資にも関係するだろう。 2国間信用による日本の技術移転政策にも影響が出るだろう。

中国が炭素価格を支持する理由

 今回、中国はキャップ・アンド・トレード(C&T)による全国的な排出権取引制度を2017年より開始すると発表した(共同声明第12項)。電力、鉄鋼、建材、セメント、紙、非鉄等をカバーし、中国の炭素排出の約半分を対象とする。 理屈上は炭素に価格がつくと、より費用効果的な削減が可能になり、その限度で中国はINDC(国別排出削減数量)を、そうでない場合より野心的にすることができる。だから、そのこと自体は中国にとって「得になる」重要な政策展開だ。

 国際的にも意味がある。現在、排出権取引は世界で40か国、23地域で実現している。中国の参加で、この国際的な動きに弾みがつく。各国の制度をリンクして、より効率的に2℃を達成するという進行中の作業にも貢献するだろう。

 さらに米国に対しても大きなメッセージになるだろう。周知のとおり、米国の新しいエネルギー政策であるクリーン電力計画(CPP)においても、各州に対してC&Tの採用が奨励されている。米国議会では、保守党がこの種の市場政策に反対しているため、連邦レベルでの導入は挫折した。今回、事もあろうに、中国が米国の首都でこの市場政策を発表した。このメッセージ性は大きい。

 もちろん中国の統計とか、ガバナンスの不備とかで、問題点を指摘出来る。でも下記の通り、中国当局は、多数の米国・欧州の専門家集団と綿密な共同作業をしている。次第に侮りがたい仕組みになる可能性がある。

中国は非効率な石炭に融資しない

 今回、中国は高い汚染性と炭素排出を伴う内外のプロジェクト(projects with high pollution and carbon emissions)への公的融資は、厳格に管理すると述べた(共同声明第16項)。これは米国がすでに通常の石炭火力への公的融資を止めたことに関連して述べられている。米国が石炭への融資を自主制限しても、中国は輸出するだろうから市場を奪われるだけだという議論が米国内にはあった。その点で石炭火力を制限しようとするオバマ政権のCPP推進に貢献するだろう。

 さらに国際的な波及もありそうだ。要するに、中国も石炭火力の輸出に一定の制限を加えるつもりなのだ。米国と共に石炭火力の拡大に反対してきた世銀などは、この中国の政策を歓迎している。日本は、高効率石炭火力発電装置の輸出信用の制限に反対している。日本は日本の石炭火力発電は超高効率だし、日本が輸出しなければ中国が輸出すると主張してきた。しかし、上記の文言の意味次第だが、日本は今後、困難な状況に追い込まれる可能性がある。 ・・・ログインして読む
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筆者

西村六善

西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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