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ノーベル賞報道に異議あり!

いわゆる「良妻賢母」を美談として取り上げる「精神構造の幼稚さ」からの脱却を

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

 今年も日本人が、ノーベル医学生理学賞と物理学賞にそれぞれ1人ずつ選ばれた。大変喜ばしいことであるし、一度に2人も、しかも日本発の研究成果が受賞したことは、日本人として誇るべきことだ。一方、受賞後の雰囲気や報道は、残念ながら「相変わらずだな」としか言いようがない。2000年以降、米国に続く世界で2番となる数のノーベル賞受賞者が自然科学の分野で輩出しているという事実は紛れもなく日本の科学の発展を象徴している。しかし、それに反して、そこに住む人々の精神構造は相変わらず幼稚だと筆者は感ずる。

その例のいくつかを以下に示す:

無機質な記者会見

拡大ノーベル賞受賞が決まって会見する梶田隆章さん=6日夜、東京都文京区、金川雄策撮影
 筆者がいつも思うのは、日本の記者会見の無味乾燥さだ。人間味や温かさといったものが全く感じられない。バックの壁の模様ひとつをとっても、あのセンスの無さは酷い。いつも同じタイル模様の背景。そして、無機質な机や椅子、温かみを感じさせない全体の雰囲気、淡々として型にはまったプレスリリースと受け答え、などだ。スウェーデンで行われる記者会見とは雲泥の差だ。

 ストックホルムのノーベル賞発表の記者会見は、温かみや親密さを感じる木材を基調とした、割とこぢんまりとした部屋で行われる。記者たちも自然な形で集まっている。床に座っている記者もいる。日本も、ノーベル賞の記者会見は、「謝罪の記者会見ではない」のだから、もっと人間の温かみを感じる、そして、皆で心から祝福できる雰囲気をかもしだすような場を演出して頂きたい。

ノーベル賞のお受験化

 ノーベル賞受賞者の体験談を借りて、「こうやったら(あるいは、こうやったから)ノーベル賞が取れる」といったようなお粗末で貧困な話題を取り上げるは止めたらどうだろうか。メディアがこういう類の記事を発信するということは、国民の多くがそういう記事を欲しているということなので、このジレンマを解決するのは非常に困難であることは十分承知してはいる。しかし、もうそろそろおしまいにならないだろうか。

 このような話題は、「こうやったらキミも東大に合格できる!」といったレベルとさほど変わらない。そもそも、ノーベル賞をとってもおかしくない研究成果は、

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筆者

佐藤匠徳

佐藤匠徳(さとう・なるとく) 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)佐藤匠徳特別研究所 特別研究所長。独立行政法人 科学技術振興機構(JST)ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括・米国コーネル大学教授・豪州センテナリー研究所教授(兼任)。1985年筑波大学生物学類卒業後、1988年米国ジョージタウン大学神経生物学専攻にてPh.D.取得。ハーバード大学医学部助教授、テキサス大学サウスウエスタン医科大学教授、コーネル大学医学部Joseph C. Hinsey Professorを歴任後、2009年に帰国、2014年まで奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)バイオサイエンス研究科教授。2014年7月にNAIST退職後、2014年8月1日より現職。専門は、心血管系の分子生物学、ライブ予測制御学、組織再生工学。【2017年6月WEBRONZA退任】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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