中国が創始し英国が後追いした、対照的な二つのランキング
2015年10月29日
英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が、今年の世界大学ランキングを発表した。日本の大学が軒並みランクを下げたと複数の新聞が報じた。今や10月の恒例行事になりつつあるようで、国内の有名校の執行部はランクに一喜一憂だ。
このような狂奔は日本だけかと思ったら、昨年6月に訪ねたロシアでも「世界トップ100に10大学を入れる」と、プーチン政権が打ち出していた。そして、モスクワ大学、ノボシビルスク大学(NSU)など10校への財政支援事業を昨年から始めていた。年間10億ルーブル(約30億円)を各大学に3年間支援する。
訪ねたNSUはその資金で建物増築中であった。私は当時在職していた大阪大学を代表して大学間交流の交渉に出かけたのだが、このような背景もあり、学長以下、多数の教職員に熱狂的に歓迎された[写真1]。「阪大と交流できれば国際化でランクが上がる」と喜んでいた。
15年来の研究仲間の親友・張傑(Zhang, Jie、写真2)が学長になった上海交通大学の場合も驚く。彼は実績を積み、5年ほど前、「教育・研究の質向上のために、現在の教員の1/3を先進国で活躍している研究者に替わってもらう」と宣言。講義も英語でしてもらう。
その後、年間100人程度の研究者を、米国で活躍している中華系を中心に、ヘッドハントしてきている。学長曰く、中国政府だけでなく、上海市も大学国際化・質向上に重点投資をしてくれるそうだ。
我が国では、数年前から文科省も意識するようになり、通称「グローバル30(G30)」や「スーパーグローバル大学創成支援(SGU)」と呼ばれる世界大学ランキング向上の補助資金を著名大学に注入してきている。筆者もG30では、英語で全て教育する大学院コース設立、留学生勧誘・受け入れに関わってきた。
その後の事業として平成26年度にSGUが公募され、13の大学が「タイプA:トップ型(世界大学ランキングトップ100を目指す力のある、世界レベルの教育研究を行うトップ大学を対象とする)」として採択された。平均年間4.2億円の予算が10年間交付される。
ところで、世界大学ランキングを始めたのは中国の上海交通大学ということを皆さんご存じだろうか。私は上記の国際化推進に関連してランキングの調査をした。親友の学長にお願いし、2013年4月、世界大学学術ランキング研究センターを訪問し、当初から本事業に携わっていた副所長と面談した。
彼は、何故、上海交通大学がランキングを公開するようになったか、その歴史から紐解いてくれた。
1998年5月、当時の国家主席・江沢民が北京大学創立100周年の記念式典で講演し「国家目標として、中国の大学を世界レベルの大学に躍進させる」と宣言した。ところが、当時の中国では「世界レベルの大学」とはどのような大学なのか、だれも知らない。
そこで、江沢民は母校の上海交通大学にその調査を命じた。大学では学長が、当時、教育学部に所属していた副所長たちに「どのようにすれば中国の大学が世界レベルに向上するのか、調査してほしい」と依頼し、さらに、そのデータを基に現実的な戦略を提案するよう求めた。
まず彼らは、米国の大学を調査することにした。評価の高い大学と低い大学、中程度の大学のデータを集め、何が原因で評価が分かれるかを詳しく調べた。
調査範囲を広げ世界の200の研究型大学を対象とした。そこから評価基準の大まかな方針を決めた。そのようなデータの中間報告を政府に提出するや、教育省の役人が大変興味を示した。
そこで、彼らは自分たちが研究してきた大学のランキングの評価の仕方に自信を持つようになった。その後、2年間のベンチマーク期間をおいて2003年に世界で初めて「世界大学学術ランキング」として発表した。そのような試みは欧米でもなかったので、世界で大きな反響を呼んだ。最新版はこのURLに掲載されている。評価の方法も詳しく書いている。
一方、本稿の冒頭でふれたランキングは、The Times社系列の「THE世界大学ランキング(略称:THE)」である(最新版のURL:当初の名称は「QSランク」)。これは上海交通大学が大学学術ランキングを公開した翌年の2004年から公開が始まった。
その初版の前書きには「このような世界的な大学の評価は本来、アングロ・サクソンが担うべき役割であり、中国に先を越されたことは痛恨の極みである」のような表現があったそうだ。
世界には現在、これら以外のランキングも公開されているが、
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