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途上国でもCO₂の排出ゼロは可能だ

グラミン銀行創始者でノーベル平和賞のムハマド・ユヌス氏に聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 国連の気候変動会議を長く見てきた。正式には気候変動枠組み条約締約国会議(UNFCCC COP)と言う。最初の取材は1997年の京都会議(COP3)だったので、18年前のことになる。この時は、一言で言えば、先進国の温室効果ガス削減目標という数字を決める会議だった。

 その後、世界は変わった。途上国、特に中国などの新興国を含めた削減の枠組みをつくらなくてはならなくなったが、一筋縄ではいかなかった。2009年のコペンハーゲンでのCOP15の失敗がいい例だ。私はあの時、「国連という舞台では、もう合意は難しいのか」と思った。だが、なんとか舞台は持ちこたえ、3週間後にパリ会議を迎える。再び合意に失敗すれば、人類にはもはや温暖化の脅威から逃れるだけの時間が残されないのではないか、とさえ思える。

関係者に漂う楽観論

 にもかかわらず、不思議なのは関係者に楽観論が漂っていることだ。振り返ってみれば、COP15の時だって、関係者は強気の姿勢を崩さなかった。今回だって油断していると危ない。だが、やはり今回は、これまでとは明らかに違っていることが二つある。ビジネス界と途上国内の動きである。楽観論の根拠は、国連交渉の外にあるように見える。

 温暖化防止に関する長期的な国際枠組みやルールがない現状について、「何とかしてほしい」という外から指針を求める声が強くなっているのだ。ビジネスの動きについては、元外務省気候変動担当大使の西村六善氏の最新レポート(脱炭素文明の巨大投資が始まる続・脱炭素文明の巨大投資が始まる)があるので、そちらをお読みいただきたい。私は、途上国の変化について触れる。

ムハマド・ユヌス氏拡大ムハマド・ユヌス氏
 条約では「共通だが差異ある責任」という原則の下に先進国と途上国は明確に区分され、COP交渉での南北対立はいまも激しい。ただ最近の交渉では、途上国も一枚岩ではなく、温暖化防止に熱心な小さな島国や消極的な産油国などの連合に加え、新興国、アフリカ諸国、南米の一部など主張が近い様々なグループが独自の立場で動くことが増えている。

 この中でCO₂の排出はほぼゼロなのに、大きな被害が予想される最貧国については、先進国の支援なしに温暖化対策に動くことはないと見られてきた。そして経済成長のためには、化石燃料の使用を増やすことは避けられないと思われてきた。だが、ここにきて彼ら自身も、脱炭素に向けた動きを見せるようになってきた。別に温暖化防止が目的というわけではないようだ。いったい何が起きているのか。バングラデシュのグラミン銀行創始者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が、10月に来日したのを機に聞いた。(インタビューは10月7日に実施)

世界最大のオフグリッドシステムに成長

 ――バングラデシュでは、太陽光発電の導入が急激に増えているそうですね。

 私たちは、貧しい人たちの問題を解決するために、ソーシャルビジネスを始めました。利益が一義的な目的ではなく、社会に役に立つビジネスです。バングラデシュでは、いまも70%以上の人が電気を使えない状態です。その人たちが太陽光発電を使えるように、ソーシャルビジネスの手法を活用したのです。ただで配っているわけではありません。もうけようとは思っていませんが、彼らが入れられるような安さで太陽パネルを提供できる会社をつくったのです。

 ――グラミンシャクティという会社ですね。

 20年前に会社をつくった時、太陽光発電はいまほど知られていませんでした。太陽光発電を田舎の貧しい人たちの家に入れるなんて、だれもが無理だと考えていました。実際、住民を説得するのは大変でした。最初は、月に2、3セットを設置するのがやっとでしたが、20セット、50セット、100セットと増えていき、いまでは1日に1000セットも売れています。灯油に使っているお金を毎月、私たちにくれれば、太陽光発電を入れてあげるというシステムで、3年以内に完済します。

バングラデシュでは太陽光発電によるオフグリッド化が急激に進んでいる(グラミンシャクティのHP)拡大バングラデシュでは太陽光発電によるオフグリッド化が急激に進んでいる(グラミンシャクティのHP)

――なぜ、そんなに安く入れられるのですか。何か補助金があるからですか。

 補助金などの支援はありません。カナダ製や中国製を買っていますが、安くしてくれるわけではありません。交渉して市場価格で調達しているのです。日本の京セラ製を買うこともあります。セットになっている蓄電池は地元製を調達しています。唯一の支援は、一つの政府機関が、少し安い金利で私たちにお金を貸してくれることだけです。

 ――それで1日に1000セットも売れているのですか。
 私たちだけですでに160万セットを売っています。いまではたくさんの会社ができて、彼らも売っているので、バングラデシュ全体で300万世帯以上が太陽光発電システムを導入しています。バングラデシュは、送電線を使わない電気を使うオフグリッドシステムでは、世界最大の国になっています。(支援ではなく)ビジネスなので、 ・・・ログインして読む
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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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