メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

NASAの火星会見が誤報につながったわけ

火星から大気が失われた本当の理由と科学者の説明不足

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 米国航空宇宙局(NASA)の火星探査機「MAVEN(メイブン)」(WEBRONZA2014年9月26日『「のぞみ」のリベンジになった米印の火星探査機』参照)の成果に関する記者会見が11月5日に行なわれた。

拡大NASAの記者会見。左はMichael Meyerで火星プログラムの責任者、右はBruce JakoskyでMAVEN計画の責任者

 会見は1時間近いもので、火星の大気流出というテーマに沿って多岐の内容に渡ったが、その中で何度も語られた地球との違いが明らかに説明不足で、案の定、新聞などの報道では誤って伝えられた。この「誤報」に通信社や新聞社の責任はない(これははっきり書いておかないと無駄に騒ぐ人がいるので強調しておく)。しかし、科学の成果を伝える難しさを考える参考になると思うので、詳しく説明したい。

 まず、報道の例として朝日デジタルの関連部分を引用する

(前略)かつて火星には大量の大気と液体の水があったが、太陽風が大気を吹き飛ばし、現在の冷たい砂漠のような表面に変わったことを裏付けるという。
(中略)
火星は、地球と同じ46億年前ごろ誕生したとされる。40億年前ごろまでは濃い大気に覆われ、表面に海洋が広がっていたが、大気の多くが失われて環境が激変した。地球は地磁気の磁場に覆われており、太陽風の直撃を受けずに済んだことが、地球と火星の環境の違いを生む一因になったとみられるという。

 これを読んだ読者は、過去40億年間に火星の大気と水を失わせた主因が太陽風で、それが地球で起きなかったのは地球磁場のお陰が無視出来ない、と解釈するだろう。

 しかし、主因は磁場ではない。磁場のない金星は地球の100倍近い大気(窒素だけでも倍以上)がある。何が主因かといえば、重力の差なのだ。

地球、金星、火星の大気の進化

 地球・金星・火星は、大きさも、太陽からの距離も、密度も似ているが、大気圧や組成は大きく異なる。水は地球でしか見つかっていないし、火星の大気量は地球の200分の1だ。過去の火星に水があった証拠は多いから、大気ともども過去45億年で大きく減ったと考えられる。

 火星の水はどこに消えたのか? 火星の大気はどこに消えたのか? 地球でも同様なことが起こるのではないか? そういった疑問や不安は科学者に限らず多くの人が抱くだろう。 ・・・ログインして読む
(残り:約2116文字/本文:約3022文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

山内正敏の記事

もっと見る