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「もんじゅ勧告」のすごい内容

原子力機構をコテンパンに。勧告は「答えのない問い」か?

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

もんじゅ外観高速増殖炉もんじゅ。約20年間止まったまま。つぎ込まれた税金は1兆円。一日5千万円の維持費がかかっている。

 原子力規制委員会(田中俊一委員長)が文部科学大臣に出した勧告が原子力界を揺るがせている。日本原子力研究開発機構(原子力機構)にはもんじゅの安全管理能力がないので、「運転するなら他の組織を探すこと(つくること)」を命じたのだ。役所仕事として考えれば、組織の名前変更が頭に浮かぶが、それには「看板の掛け替えはダメだ」とクギをさしている。勧告の全文を読むと、その厳しい表現におどろく。政府内の仲間である役所同士の文書としてはちょっと見たことがない書きっぷりだ。

 止まっているもんじゅの安全管理さえできない

 勧告はまず「一連の経緯と問題点」として、原子力機構は、旧原子力安全・保安院時代から規制当局による再三の指導を受けていたが、「結果的に具体的な成果を上げることなく推移した」と批判している。

 そして規制委の時代になったあとも、規制委は原子力機構や文科省に対し、「規制上の措置」や「適切な監督」を要請してきたが、「現在に至るも十分な改善は見られていない」と突き放した。20年前のナトリウム漏れ事故以来、原子力機構の安全管理のずさんさは変わっていないということだ。

 そのうえで現在の状況を、「出力運転の主体としての適格性に関し、原子力利用における安全の確保の観点から重大な懸念を生ずるに至った」と判断した。こうした経緯を踏まえ、7項目にわたって「評価」を書いている。

 (1)略。 (2)では「現時点で使用前検査を進める前提となる保安措置命令についての対応結果の確認を行える状況にはない」と、使用前検査をする前提の準備さえも不十分とした。

 その不十分さの程度を(3)で書いている。

 「(原子力)機構については、単に個々の保安上の措置の不備について個別に是正を求めれば足りるという段階を越え、機構という組織自体がもんじゅに係る保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していないと言わざるを得ない」

もんじゅのナトリウム漏れ事故の現場。1995年12月。床にあるのは、配管から漏れて固まったナトリウム。

 「原子炉を起動していない段階ですら保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有しない者が、出力運転の段階においてこれを適正かつ確実に行うことができるとは限らない」。 

 原子力機構は組織として安全管理をきちんとする能力がなく、止まっているもんじゅの安全管理もできない、、とても運転は任せられない、というものだ。ここまで書いている。

 (4)では、「もんじゅは研究開発段階とはいえその出力の規模は商用の原発に近い」とその「危険の大きさ」を指摘し、「機構がこれにふさわしい安全確保能力をもつとは考えられない」と、重ねて管理能力を否定した。

 (5)では、こうした状況をまとめ、「機構が運転の主体である出力運転に向けた使用前検査を進めるための活動を行えない状態、ひいては原子炉を出力運転することができない状態が続いていくことになる」とした。

 (6)(7)は略。

 こうした評価をした上で2つのことを求めている。
1)機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること。
2)(これが困難であるのならば)もんじゅが有する安全上のリスクを明確に減少させるよう、もんじゅという発電用原子炉施設のあり方を抜本的に見直すこと。

 「これは答えのない問いだ」

 要するに、安全確保の態勢がまったくできていない、それもずーっと昔から、という全面的なダメ出しである。この勧告に対しては、これまでのいきさつからみて「仕方がない」という意見がある一方、関係者や政府部内からは批判がでている。

 勧告が「他の運転者を探せ」と言っていることに対し、元文科省事務次官の坂田東一さんは「急に代わりを探すのは難しい。代わる主体があると思っているのなら、規制委は文科省にアドバイスすべきだ。もしその見通しがないまま勧告を出したのであれば責任ある判断とは言いかねる」と話す。規制委も行政の一角を担うのだから、行政の常識にのっとった措置が欲しいという。

 原子力機構の相談役で前理事長の松浦祥次郎さんも似た意見だ。「あの勧告に対して、具体的で有効な答えが返ってくるとみているのだろうか。日本でナトリウム炉を動かすことに関して、今もんじゅに関わっている人たち以上の人がいるとも思えない」

 松浦さんは原子力安全委員長だった2002年、東電の「原発トラブル隠し」に関して、経産相に対して再発防止を「勧告」した。このときも「伝家の宝刀が初めて抜かれた」と注目されたが、出す前は関係者への根回しが大変だったという。

 勧告を出した後、関係の法律が改正され、事態がうまく前へ進まなければならない。それを事前に準備するのだという。当時の小泉純一郎首相にも説明に行った。それに比べて今回の勧告は、答えは見つかりにくく、最初から「政策論を起こすためにやったかのようにみえる」という。

 規制委はこの勧告を「答えのない問い」と認識しているのだろうか?記者会見でも質問が出た。

 記者)もんじゅ、高速増殖炉に対して十分な知見をもつところは、(原子力機構のほかには)普通に考えて、現時点ではないのではないか。

 田中俊一委員長)ないというのを今、言い切るわけにはいきませんので。どういうふうなご判断をされるかということは、私どもの方から何か言うような段階ではありません。

 田中委員長は、何かの組織が念頭にある、ないには関係なく、安全確保の観点からやむを得ずやったこと、とシンプルに説明している。

 ふつうなら廃炉

 今後の議論の方向はわからないが、「代わりに運転する組織」は簡単には答えは見つからない。最有力候補である電力業界は「とてもできない」と否定的だ。そもそも高速増殖炉(FBR)を中心とする核燃料サイクルの将来は全くみえない。当然ながら、「もんじゅ廃炉」が有力な選択肢としてでてくるだろう。

 振り返ると日本は1956年の第一回原子力長期計画で、すでに「高速増殖炉を国産技術で開発する」という方針を掲げた。そして実験炉、原型炉、実証炉を経て最後に実用炉をつくり、これを多数基展開して原発の主流にするというシナリオを描いた。当初、実用炉は「1990年ごろまでにつくる」とされていたが、世界的にFBRの時代は来なかった。

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