欧州がこれまで難民を受け入れてきた背景と、日本がすべきこと
2015年11月26日
スウェーデンの公安はテロ警戒レベルを5段階中の3から4に引き上げた。4は過激派がテロを起こす手段と意思を持っていると判断されるレベルで、導入以来初めてのことだ。国内に存在する「実行能力のある者」が、ロシア機爆破テロとパリの同時多発テロに刺激を受けて、独自に何らかの行動を開始するリスクが上がったと判断された。同様に、欧州の複数の国でもテロ警戒度を高め、ベルギーの首都ブリュッセルに至っては最大レベルの警戒度で日曜(10月22日)の地下鉄が止まったほどだ。
スウェーデンに住んで25年、テロのニュースは何度も流れている。福祉国家ゆえに「社会格差が原因のテロが起こり難い」と思われがちな北欧ですら、2010年12月の週末にストックホルム繁華街で爆弾テロが(幸いにして爆発が繁華街の外れで起こって犯人以外の犠牲者が出なかった)、2011年7月にオスロ近郊で反移民の右翼による銃乱射が(77人の犠牲者を出したのは、単独犯テロとしては過去最大)、今年2月にデンマークで銃乱射が起こっている。
それでも、パリのテロの衝撃は大きかった。理由は2つある。ひとつは「西欧文化を満喫している普通の民間人」がターゲットとして積極的に選ばれたことだ。それこそ私すらテロの対象になり得る。もうひとつは、大規模な組織だった襲撃で、実行犯のひとりが目を付けられていたにもかかわらず、各国公安の目をくぐり抜けて遂行した緻密性だ。
つまり、テロリストの恨みを買うような場所だけを避ければよい話ではなくなったのだ。だから、出張は嫌だなあ、という気分だ。とはいえ、それに屈してはテロリストの思うつぼなので、出張予定(この原稿が載るころにもオランダに行く)に変更はない。日本の通り魔殺人や暴走車に轢かれるリスクに比べれば、テロに巻込まれる可能性は未だに低いのだ。
一方、今回のテロで、難民問題の行方が見えなくなってしまった。
実は難民問題が騒がれていた2ヶ月前、スウェーデンに関して私は比較的楽観視していた。というのも、スウェーデンに割り当てられた数字は、1年当たりでは過去最大だが、5年で均せば突出しているわけではなく、しかも難民は移民のうちの2割程度を占めるに過ぎず、実務的に対応可能な数字だからだ。
スウェーデンは、与野党を問わず移民に好意的だ。今回の難民問題でも、自治体によっては割り当て分に不満を述べる所もあったものの、全体としてはスムーズに受け入れ態勢が整ったと思う。もちろん、移民が増えると、排斥を主張する極右政党が支持は伸ばすが、それでも、欧米で最も移民比率が高いスウェーデン(外国生まれだけで人口の15%を占める。ただし隣国フィンランド出身が一番多い)の世論が欧州で最も難民に好意的なところに、移民に対する一種の慣れを感じさせる。
さて、日本ではデータをきちんと調べもせずに、極右政党の受け売りとしか思えないような「移民社会で経済が悪化」という偏見を持つ者が昔から多い(ネット検索で上位にくる)。しかし、スウェーデンの国家財政は極めて健全だし、経済も順調だ。そもそも福祉国家では、子供を育てることに多くの税金が費やされる。人の寿命を80年とすると、始めの20年余と最後の15年が税金で養われ、残りは生産活動に貢献して税金を納める年代だ。移民とは、身も蓋もない言い方をすれば、始めの20年を省略する「福祉の享受の最も少ない」存在なのだ。
従って、移民政策の肝は、働いて税金を納める「労働力」に早くなれるように移民をサポートするところにある。それに必須なのは語学教育だ。逆にいえば、
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