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「素人による素人のためのサイエンス」を憂う

今年を振り返って見えてきた日本の根源的病巣

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

 今年も日本のサイエンス分野では様々なことが起こった。筆者の今年最後の論考では、代表的な出来事を振り返り、それらが浮き彫りにした日本社会に潜む根源的病巣を論ずる。

小保方晴子氏の博士号取り消し

 それは、2014年1月に始まった。これまで数多くの科学の歴史を塗り変える研究論文を掲載している国際科学誌・ネイチャー(Nature)誌に、ノーベル賞受賞の山中伸弥氏が発明したiPS細胞を超える夢のような大発見が2報の論文として発表された。しかも、それらの論文の筆頭責任著者は、アイドルタレント顔負けの、若い女性研究者・小保方晴子氏だった。

 国内メジャー新聞紙はこぞって一面で取り上げ、各種メディアも大騒ぎ、本人もその所属機関である理化学研究所もここぞとばかりにテレビのバラエティーショー顔負けの演出を披露した。それをいいことに、メディアや研究関係者は「リケジョ」の金字塔のように利用した。

 しかし、それから1年以内に、その大発見は「夢のような」ではなく、小保方氏の「夢想」であったことが発覚した。そして今年10月には、小保方氏の博士号を、その授与機関である早稲田大学が取り消すことが決定され、発表された。

 嵐のように到来した大騒ぎも、2年以内というスピード解決で、一瞬のうちに過ぎ去り、「正常」に戻った。しかし、それはもっと大きな嵐の前兆であることを誰も知らない、あるいは気づかないふりをしているだけかもしれない(高橋真理子氏の2015年11月25日付「小保方事件は繰り返される」参照)。

理化学研究所の新体制スタート

 上述の小保方事件の責任を取り、理化学研究所は組織再編を行い、当時の理事長であった野依良治氏もその座を退いた(正式発表では、引責辞任ではなく、年齢や任期満了による退任とされている)。そして、元京都大学総長の松本紘氏が理事長に就任し、理化学研究所は今年4月から新体制でスタートした。

 しかし、この組織再編も、上面だけで、その根源に潜む病巣はそのままだ(筆者の2015年2月20日付「理化学研究所の絶妙のパフォーマンス」参照)。

日本版NIH正式始動

 日本の医学分野の基礎研究から臨床研究までシームレスに効率よくサポートし、医療革命を目指すという政府の目標を実現すべく、「日本版NIH」(正式名称は、国立研究開発法人・日本医療研究開発機構)が今年4月に正式スタートした。しかし、新しいのはその名だけで、その

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