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パリ協定の歴史的意義

『ドイツの挑戦-エネルギー大転換の日独比較』刊行に寄せて

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 地球温暖化対策の新しい枠組みであるパリ協定がCOP21で採択された。京都議定書(1997年)にかわる18年ぶりの温暖化対策の世界的な取り決めである。

 京都議定書から20年近くたって、気候変動の被害が世界中で明らかになり、とくに世界の貧困層への打撃も深刻となりつつある。また中国が世界最大の温室効果ガス排出国となり、米国とならんで対策をとる必要性が明らかになった。

 他方で、温室効果ガス削減への取組として、世界的レベルで再生可能エネルギーの普及と省エネへの取組みが行われるようになったことがパリ協定の背景にある。途上国も被害を減らすために温室効果ガス削減の目標を作成し、達成するための手立てを取らなければならない。

パリ協定に向け修正案を協議する非公式閣僚会合、12月11日、パリ。朝日新聞撮影

 そこで、パリ協定の目的は、産業革命前からに気温上昇を2度未満に抑えるとともに、1.5度未満に収まるように努力するとした(第2条)。対象国も京都議定書の38カ国・地域から196カ国・地域となり、「全員参加」の枠組みとなった。

 長期的目標としては、世界全体でできるだけ早い時期に排出量増加を食い止め、今世紀後半に実質ゼロにするとした(第4条)。全ての国は目標を作成・報告するとともに、目標を達成できるよう国内対策を取らなければならないが、目標値は各国が自ら決定し、目標達成の義務はない。この部分が京都議定書(目標値は政府間交渉で決定され、罰則あり)と異なるところである。

 途上国への資金援助は、先進国が2020年以降、1000億ドル(約12兆円)を下限に拠出することに合意したが、協定には金額は明記されず、COP21決定文書に盛り込まれた。

資料:パリ協定要旨(朝日新聞12月15日付)
・長期目標 産業革命前からの気温上昇を2度よりかなり低く抑え、1.5度未満に向けて努力する。今世紀後半に人為的排出と吸収を均衡させることを目指す。長期的目標達成に向けた世界全体での取り組み状況について、2023年に1回目の評価をし、以後は5年ごとに行う。
・各国の目標 すべての国は削減目標を5年ごとに出し直す。
・被害への適応と救済策 適応についての世界的な目標を設置する。被害や損失を抑えたり、避けたりすることの重要性を認識し、そうした問題に対応する仕組みを支える。
・資金援助 先進国は引き続き、排出削減や適応のための資金を提供しなければならない。先進国以外の国も自主的に支援を行うことが奨励される。
・透明性の確保 各国は排出量や、資金支援、技術供与などの情報を提供し、専門家による点検を受ける。

 陸上、洋上の風力を

 日本はCOP21を前に、2030年までに2013年比26%削減の目標をかかげ、これを「野心的な」目標(安倍首相)と称した。日本が提出した削減目標は、経団連が産業界の自主目標を合計したものであり、「野心的」というよりも実現性を重視した内容である(日経2015年12月13日付記事)。

 日本は、2030年のエネルギーミックス(電源)の目標において、再生可能エネルギー24%、原子力20%を掲げているが、CO2削減の大きな柱となるべき省エネと再生可能エネルギーの目標値と達成方法が課題である。

 削減目標達成のための国内措置が未定のなかで、「エネルギー・環境イノベーション戦略」の内容が問われている。

 その例として、水素の貯蔵輸送システム開発、深部地熱発電、「人工光合成」など新規性を狙ったものが挙げられているが、確実にすでに実証されているものの普及に努めるべきではないだろうか。この点では、ポテンシャルが高く、再生可能エネルギーの主柱となる日本の陸上と洋上風力発電の普及が、この間ほとんど進んでいないのは、英国やドイツと比べてみても明らかである。

 これに対して、アベノミクスの第3の柱とされる「経済成長戦略」に、「原発の再稼働」と「原発の輸出」が位置づけられている。世界的に見れば、3つのリスクである「気候変動」「原子力事故」「エネルギーの対外依存」を総合的に減らしていく「エネルギー環境戦略」を取らなければならない時に、「原発の再稼働」「原発の輸出」、そして「石炭火力発電」の新設をすすめるという方針は、世界の方向性と逆行するものである。

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