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敵は天然にあり

カフェイン中毒死が語ること

渡辺正 東京理科大学教授

 「カフェインの過剰摂取で20代の男性が死亡」という福岡大学医学部の発表(2015年12月21日)が話題になった。めったに起きない事故だとはいえ、摂取量が多ければ天然物も命にかかわる。いやむしろ、天然物だからこそ危ないと心得よう。カフェインは、コーヒーノキという植物が自衛のために体内でつくる「化学兵器」だ。

 体重50~60 kgの成人なら、いわゆる急性毒性の致死量は、低い見積もりで5 g = 5000㍉グラムだという。ただしレギュラーコーヒー 1杯のカフェインは60~120㍉グラム、平均80㍉グラムだから、一気に50杯も飲まないかぎり致死量には届かない。くだんの男性は死亡時の1年ほど前から、深夜~早朝勤務の眠気覚ましにと、1缶あたりカフェインを約150㍉グラム含む飲料のほか錠剤も常用し、飲みすぎたとき致死量に届いた。

 自力で動けない植物や菌類(キノコ)は、さまざまな毒物を体内につくって自衛する。毒物は通常、根や芽や果実など、繁殖にとって大切な部位で濃い。カフェインは豆 = 果実に多く、名高いトリカブトのアコニチンは根に多い。レタスやキャベツなどの野菜も、梅などのプラム類の実も、猛毒のシアン化水素 = 青酸を含む。子どものころ身近に、青い梅を食べすぎて亡くなった人がいた。

 ジャガイモが含むソラニンというアルカロイドも猛毒で、ジャガイモ10 kg分の200~300㍉グラムが成人の致死量にあたる。ソラニンは保存中に出る芽に多いから、芽を除いてから調理しよう。

 蚊取り線香の有効成分となるキク科植物のピレスロイドも、昆虫に食べ尽くされないための化学兵器だといえる。同類にはヤナギ類のサリチル酸もある。昆虫に毒なら、大量だとむろんヒトにも毒になる。

 天然には発がん物質も多く、体にいいと讃える人の多いポリフェノールも発がん性が強い。ポリフェノールは有機物5000種ほどの総称で、うちカフェー酸やコーヒー酸という名の物質は、たいていの野菜と果物に含まれる。ふつうの食生活なら、重さあたりの効き目と摂取量をかけ合わせた発がんパワーは、天然物にかぎると、ポリフェノールがいちばん大きい。

 弱い毒物はいくらでもある。 ・・・ログインして読む
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筆者

渡辺正

渡辺正(わたなべ・ただし) 東京理科大学教授

1970年東京大学工学部卒業。1976年工学博士。2012年東京大学(生産技術研究所)定年退職、名誉教授。同年より東京理科大学理数教育研究センター教授。著書・訳書は『高校で教わりたかった化学』、『「地球温暖化」神話』、『地球環境化学入門』『プルトニウムファイル』、『フォン・ノイマンの生涯』、『アトキンス 一般化学(上下)』など約160点。【2016年WEBRONZA退任】

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