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極地でしか見られない真珠雲は謎がいっぱい

今冬に大発生するも、オゾン層破壊や地球温暖化との関係はいまだわからず

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン・キルナ市で見られた真珠雲=2015年12月27日
 成層圏雲の一種である「真珠雲(Nacreous Cloud)」という色付き雲が5年ぶりぐらいで大発生している。12月後半は3週続けて出た(写真は12月27日のもの)。

 これは極地の山脈の風下にしか出ない雲で、頻度も多くて年に数回と、オーロラよりもはるかに珍しい現象だ。もちろん日本では見られないし、オーロラ観光客が見る確率も極めて低いので、あまり知られていないと思う。とはいえ写真のように美しく、しかもオゾンホール問題や地球温暖化問題とも関係があると言われてきたので、この機会に紹介したい。

 名前の由来は、写真のように虹色に輝き、その輝き方が螺鈿(らでん:貝殻の真珠層のことで英語では「真珠の母」と呼ばれる)と同じであることからくる。色がつく原理も螺鈿と同じで、非常に薄い透明膜の厚みのわずかな違いで光の干渉が起こり、白色光が七色に分解されるのである。雲が薄く、雲粒子が均質なときにようやくこの条件をみたす。この原理はニュートンリングと呼ばれ、身近な他の例では、車のオイルがこぼれた地面が雨の日に虹色に輝くのと同じである。当然、見る角度が重要で、太陽が沈んだ直後(地平線下1〜5度)、太陽方向だけでしか色がつかない。その他の方向では白く輝くこともあれば、透明で見えないこともある。

 この雲のもう一つの特徴は、成層圏に発生するというものだ。

 成層圏とは地上12〜30km程度の、上空ほど温度が高くなる領域だ。その下の対流圏(我々が普通に見る雲はここで発生する)は上空ほど温度が下がるので、地面で温められて軽くなった空気が上昇して、その名の通り対流が起こるが、成層圏ではこの対流は起こらない。従って、水蒸気が下の対流圏から供給されることも少ない。

 雲はどうしてできるのか。対流圏の場合、上昇気流に乗って動く空気塊の温度が下がり、蒸気を気体として保持できなくなるからである。上昇気流の代わりに、冷たい気団が襲って来て、湿気のある空気塊を冷やしても雲が発生するし、逆に温度の低い場所に湿った暖かい風が吹き込んできても雲が発生する。上昇気流によるのが入道雲で、寒気団によるのが寒冷前線、そして湿った暖かい風が吹き込む場合「前線が台風に刺激された」という呼び方をする。

 温度とともに重要な要素に気圧がある。水は平地では100度で沸騰するが、山に登るほど沸騰温度が下がる。逆にいえば、同じ温度と湿度であれば、気圧が低いほど液体(雲)になりにくい。成層圏ぐらいの高さになると、気圧が極めて低いために多少温度が下がったくらいでは雲にならない。

 そんな成層圏で蒸気が凝結するためには、

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