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温暖化懐疑論とぼちぼちつきあう

社会の多様性の一部、もしくはスパイスとして

江守正多 国立環境研究所 地球環境研究センター副センター長

 今さらというべきか、「温暖化はウソだ」「温暖化はよいことだ」「温暖化対策は無意味だ」といった温暖化懐疑論を、またたまに目にするようになった。

 2007~2009年ごろの温暖化ブーム期には、「温暖化は怖い」という本と「温暖化はウソだ」という本が競って書店の棚にならんだ。その後、温暖化問題自体から世間の関心が離れるとともに懐疑論も下火になった印象だったが、昨年末のCOP21前後に報道が盛り上がるのを見て、懐疑論の方々もまた発言せねばという気になったのかもしれない。温暖化問題への関心が少し戻ってきた兆しの一つかもしれないと思えば、結構なことだ。

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世界における温暖化懐疑論の社会的背景

 日本では下火だった懐疑論も、米国などではそれなりにずっと顕在だったようだ。世界的には、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった英語圏で懐疑論が盛んであると聞く。その社会的な背景は大きく三つ挙げられるだろう。

 一つは、温暖化対策が進むと利益を失う化石燃料企業による、温暖化対策の妨害である。このことは陰謀論めいて聞こえるので筆者はこれまで口にするのをはばかってきたが、今や実態解明が進み、懐疑論の多くはエクソン・モービルとコーク・ファミリー財団という化石燃料企業あるいはその関連組織が中心となって広められていることが、論文に堂々と書かれている。

 特にエクソン・モービルは社内では1970年代から人為起源温暖化を科学的に理解していたにもかかわらず、対外的には温暖化は不確かという立場をとり続けてきたことが最近の調査で明らかになり、大問題になっている

 二つめは、保守対リベラル(米国であれば共和党と民主党)のイデオロギー対立である。新自由主義や自由至上主義といった、小さな政府を指向する保守勢力は、経済活動に対する政府の規制にことごとく反対であり、温暖化対策にももちろん反対だ。政党やその支持層だけでなく、保守系メディアが懐疑論の広報に協力する。保守支持層は保守系メディアしか見ない傾向があるため、そこへの影響力は絶大だろう。

 三つめは、キリスト教原理主義の宗教保守勢力の存在である。神が創造した地球に人間活動によるCO₂ごときが影響を与えるはずがない、異常気象も神の意思である、ということだろうか(同様に、この勢力はダーウィンの進化論を信じない傾向があることはよく知られているとおりだ)。ただし、この勢力については、昨年6月にローマ法王が気候変動問題を人類の大問題であると大々的に発表した影響で、懐疑論からの転向が進むかもしれない。

日本における温暖化懐疑論の社会的背景

 日本においては、筆者の知る限りでは米国のような組織的な懐疑論の話は聞かない。何らかの理由で英語圏の懐疑論に共鳴した人たちが、それを日本に紹介し(中には日本の論者のオリジナルもあるだろうが)、その人たちを中心に盛り上がっているという印象だ。日本における懐疑論の盛り上がりで顕著だと思った現象を二つ挙げておく。

 一つは、「京都議定書不平等条約論」のような、温暖化対策が日本の国益を大きく損なうという主張をする人たちが、懐疑論を好んで援用することが一時期よくみられた。ことが「国益」であるので、この現象は経済的な保守層だけでなく愛国的な保守層を巻き込んで勢力を持っていたようだった。

 もう一つは、まったく逆のリベラル層の一部が、2011年の福島第一原発事故以降に、脱原発運動に懐疑論を援用した現象だ。温暖化は原発推進の口実に使われてきたという認識のもと、温暖化を否定することで原発の必要性の理由の一つを潰したいという動機であったと思われる。

 付け加えれば、これら二つほど顕著ではないが、「行政や専門家は自分たちの利権のために我々をだましているのではないか」という、より漠然とした不信から懐疑論に同調する人も、特にネット上の発言を見ていると多そうにみえる。人々にこのような不信を抱かせる背景を筆者はうまく言い当てることができないが、この部分こそ実はかなり根が深い問題かもしれない。

最近の懐疑論の傾向

 さて、英語圏で健在だった懐疑論だが、最近その内容に変化がみられることが指摘されている。基本的な傾向としては、「温暖化していない」「人間活動が原因ではない」といった科学への懐疑論が減り、「温暖化しても影響はたいしたことがない」「良いことだってある」といった影響被害への懐疑論や「対策してもうまくいかない」「中国が対策するまで自国がやる必要は無い」といった対策への懐疑論が増えているということだ。

 つまり、懐疑論者たちは科学の懐疑論からある程度撤退してきており、次のとりでである影響の懐疑論、対策の懐疑論に戦線が後退してきたといえるだろう。 ・・・ログインして読む
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筆者

江守正多

江守正多(えもり・せいた) 国立環境研究所 地球環境研究センター副センター長

1970年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年に国立環境研究所に入所し、気候変動リスク評価研究室長などを経て現職。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書主執筆者。2012年に日本気象学会堀内賞受賞。著書に「異常気象と人類の選択」等。

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