日本の「ポスドク」雇用改革の提案を
2016年02月17日
大阪大学にいました高部です。9月に早期退職し、ドレスデンにあるヘルムホルツ研究機構に新たな職を得、ドイツに移住しました。旧知の先生が理化学研究の理事長に就任し、「理研 科学力展開プラン」を昨年5/22に発表したことを知り、具体案の参考にしていただきたく公開で手紙を書いています。
このプランは5つの柱から成っています。(1)研究運営システムの改革(2)新たな成果の創出(3)イノベーションを生み出すハブとなる(4)国際頭脳循環の一極となる(5)世界的研究リーダーの育成、です。このいずれとも深く関係する若手研究者雇用について申し上げたいのです。私は大学人として任期付き若手研究者と接してきました。その経験も踏まえ、是非とも先生に国や文科省へ雇用制度見直しを提言していただき、その上で、理研改革をしていただきたいのです。
「研究運営システムの改革」の項目では、具体例として「定年制と任期制の研究人事制度を一本化し、新たなテニュア制度を構築する」と書かれています。博士号をとったあとに任期付きで研究員として雇う「ポスドク制度」は、もともと米国や欧州にある制度を日本に導入した経緯があります。その背景には、80年代後半から米国に「日本も基礎研究にもっと資金を投入すべき」と言われた、いわゆる「基礎研究ただ乗り論」があったと言われています。
当時、日本は終身雇用制が当然でした。つまり、定年制です。そこへ、研究者については3年とか5年といった任期をつけて雇用する制度を導入したわけです。確かにこの制度は雇用する側の教授や主任研究員など管理職の立場からは都合のいい制度です。若手が優秀か、個々の教授にとって人間的に一緒にやっていけるかなど総合的にテストができる。その上でポストがあれば、定年制教員に採用するか判断できる。しかし、空きの定員が少ない現状では、採用することはできません。図1にポスドクの内訳を示します。研究機関に雇用されている人数だけでも1万4千人を超えています。
理研の場合は大学より極端で、図2に示すように、平成24年で任期付研究者の割合は約9割に達しています。
研究者が他の場所に移り、新たな刺激や知識をもらったり、与えたりすることは大変いいことだと思います。だから、流動的ポスドク制度という謳(うた)い文句は正しい。しかし、ポスドク以外の大学、研究機関の定年制の方々が日本では流動的でない現実があります。同時に、「就活」という言葉までできるように、会社は新卒4月入社の若手しか雇用しようとしません。結果としてポスドクの数は徐々に増え、高齢化が起こっています。
米国や欧州ではポスドクは社会の雇用形態に組み込まれています。つまり、民間企業を含む社会全体が流動化しており、会社ですら3〜5年働き、スキルを磨き、それをより高く評価してくれる他の会社に移るのが習わしです。このような社会全体が流動的な国ではポスドク問題は日本ほど顕在化していません。
私には社会制度を無視して欧米に並ぼうとし、「ポスドク1万人計画」を答申し、実行した委員や官僚は欧米の現実まで踏み込んで議論せず、上辺だけをグローバル化したとしか思えません。20年前に社会の雇用は流動化すると予測して、ポスドク制度を始めたのなら、予想は外れたのであるから文科省は早期の改革を迫られているのではないでしょうか。
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