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単純な善悪論で済まない石炭火力

脱原発のために必要悪なのか? 追加施策は必要ないのか?

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 環境省が石炭火力の建設を認める方向に舵を切った。

 今回の環境省の石炭火力容認は、原発一本やりだった方向からの転換という点では評価すべきだろう。とはいえ、世界の潮流である脱石炭に反すると批判もされている。特に、なぜ天然ガス(LNG)を使わないのか、という疑問は、発電のことを少しでも知っている人なら自然に持つだろう。しかしながら、LNG発電でも二酸化炭素は大量に出す。しかも天然ガスだっていつかは枯渇するのだ。そのため、多くの国民にその功罪が判断できないのが現状ではあるまいか。かくいう私も判断に迷っている。

 そこで、議論の叩き台の一つとして、化学と物理の原点に戻って、論点を個人的に整理してみた。すると、環境省が見逃している問題点が見えてきた。本稿ではそれらを順次説明したい。

石炭が天然ガスより二酸化炭素を出す2つの理由

拡大図1: 炭素の酸化・還元にかかるエネルギー。炭素を最も還元した形がメタンであり、最も酸化させた形が二酸化炭素である。mol(モル)とは分子数の単位で、今の場合12gの炭素(44gの二酸化炭素)あたりということになる。
 石炭はおおむね炭素(C)の塊といってよい。それに対して天然ガスはおおむねメタンガス(CH4)の塊だ。メタンは図1のように炭素を還元させた(エネルギーを加えて作った)ものであり、その分、燃やした時(酸化させたとき)のエネルギー量が多い。なんと、炭素の倍以上なのである。逆にいえば、同じエネルギーを得るために石炭はメタンの倍以上の二酸化炭素を出す。

 石炭の2つめの弱点は、それが固体であることだ。発電に必要なのはタービンを回すことで、それには、ワットがやったように水を温めて水蒸気にして使う「蒸気タービン」と、車のエンジンなどのように燃焼の際の膨張(爆発)で直接タービンを回す「内燃機関」がある。効率は、当然ながら、直接的な内燃機関のほうが良い。ところが直接タービンを回すには燃料がガス状でなければならない。その意味で、天然ガスは石炭より有利なのだ。

 昨年の資源エネルギー庁の資料によると、天然ガス発電の効率が平均48%(最大54%)なのに対し、石炭火力発電は平均42%(最大45%程度)にとどまっている。これは技術発展を加味しても将来追いつくことはない。

拡大図2: 各種発電方式による二酸化炭素の発生量。電力中央研究所報告Y09027(今村および長野、2010年7月)並びにY99009(本藤他、2000年3月)のデータを元に筆者が作製。天然ガス(LNG)の新旧とは蒸気タービン型か、内燃機関とのハイブリッド型の違い。石炭火力の効率の改善がLNGの改善ほど進んでいないことがわかる。
 採掘、輸送、精製、施設建設、運用、保守までの全体を見た二酸化炭素排出量を比べても、石炭火力発電は図2にあるようにLNG発電の倍だ。だからこそ、先進国では「火力発電ならゴミ燃焼と天然ガスの組み合わせで」という流れになっており、例えば発展途上国が発電所を作る場合、それが石炭火力ならば経済協力開発機構(OECD)が融資できないルールもできた。ちなみに石油火力は石炭火力よりも効率が良いにもかかわらず1979年以降、建設が禁じられている。

 このような背景を考えると、もしも火力発電を今後数十年使わざるを得ないなら天然ガス発電に切り替えていくのが環境的には正しい。

それでも石炭を使うメリットは?

 しかし、いかに天然ガスが石炭より効率が良いと言ったところで、二酸化炭素を排出するかしないか、という根本的な意味では五十歩百歩なのも事実だ。

 そこで資源エネルギー庁が主張するのが、電源の分散の必要性だ。燃料を輸入に頼る日本では、輸入先の分散という意味で石炭火力がある程度の比重を占めるのも仕方がないのだろう。しかも、火力発電における天然ガスの比率は、日本はロシアとイタリアに次いで先進国3位だ。既存の石炭火力を更新する利点も否定できない。

 この議論の前提には、

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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