浅井文和(あさい・ふみかず) 日本医学ジャーナリスト協会会長
日本医学ジャーナリスト協会会長。日本専門医機構理事。医学文筆家。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者、編集委員として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。退社後、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。公衆衛生学修士(専門職)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
グローバルヘルス技術振興基金CEOに聞く
今年5月に開かれる伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)でのテーマの一つして、国際保健(グローバルヘルス)の取り組み促進がある。
安倍晋三首相もこれまで、伊勢志摩サミットなどを通してグローバルヘルスに貢献していく決意を示している。
昨年、大村智・北里大特別栄誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことは、日本からのグローバルヘルスへの貢献が評価されたと言える。
大村さんがかかわった抗寄生虫薬イベルメクチンの開発は、アフリカなどで住民の失明の原因になっていたオンコセルカ症(河川盲目症)を激減につながった。
しかし、開発途上国の最貧困層で必要される薬やワクチンの開発は順調に進んでいるわけではない。製薬企業は先進国で利益が見込める薬の開発に目を向けがちだ。
開発途上国が必要とする新薬の研究開発を推進するために3年前、日本政府や日本の製薬企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の官民共同で設立されたのが、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT(ジーヒット)ファンド)だ。
イベルメクチンに続く日本発の国際貢献はできるのか。
GHITファンドのCEO兼専務理事を務めるB.T.スリングスビー氏に開発戦略を聞いた。
――大村さんの貢献をどうみていますか。
イベルメクチンの成功ストーリーは私たちが日々やろうとしているその通りのものです。
大村さんのイノベーションを生かしてメルクが開発を進め、メルクから世界保健機関(WHO)に治療薬を寄付しました。寄付された治療薬が途上国の最も貧しい人のために提供されていて、病気が治されて健康になって、健康人として働けるようになるというストーリー。
WHOと製薬企業の官民パートナーシップでは初めての例、グローバルヘルス分野における官民パートナーシップの最も先駆的な事例だと思います。
――実際にどのような薬の開発をしていますか。
GHITファンドでは現在45の投資案件があります。投資額は約57億円。マラリアや結核、顧みられない熱帯病の治療薬、ワクチン、診断薬の開発資金を出しています。投資先は、民間製薬企業、ベンチャー企業、大学などで、官民のパートナーシップとして進めています。
今年度中に6件の臨床試験が行われています。臨床開発が終わるのが一番早くて2018年ごろ。各国の当局に承認申請をして、実際の製品として提供するのは2019~2020年がめどです。