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原子力、変化には「外圧」と「人柱」が必要なのか

福島原発事故5年後の5つの問題

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 東日本大震災と福島原発事故から5年がたち、日本は原発再稼働に向けた動きが急である。そこで、原発と再稼働に伴う問題を5つにわけて考察したい。

 (1) 福島原発事故の原因は解明されたか

 福島原発事故の原因究明に当たり、大津波の予見可能性や結果回避可能性について、東京電力旧経営陣の刑事責任が問われることになり、新たな事実関係が明らかにされる可能性がある。政府の地震調査研究推進本部の予測に基づき、東電が最大15.7メートルの津波が起こる可能性を2008年に試算していた。これがその後、東電でどのように扱われたかだ。

 さらに、たとえ津波の予見が不可能であっても、原発事故の予見可能性や結果回避可能性を問題にすべきであるという立場からの批判が相次いでいる。すなわち、当時、現場、東電本社、保安院が事故時運転操作手順書から大きく乖離していたという批判で、まずもって減圧注水が優先されるべきで、格納容器ベントはあくまで最終手段であるという指摘がなされている(田辺文也『メルトダウン』岩波書店、2012年、斎藤誠『震災復興の政治経済学』日本評論社、2015年)。

「原子力明るい未来のエネルギー」の看板。今は、はずされている。福島県双葉町。

 田辺の指摘は、炉心損傷の前は兆候ベースで、炉心損傷の後はシビアアクシデントでそれぞれ対応すべきだとしている。東電や保安院の対応が、炉心損傷が実際に始まる前から、炉心損傷後に参照すべきシビアアクシデントの手順書に依拠していたことを厳しく批判している(田辺文也「解題『吉田調書』」『世界』2015年10月号、12月号、2016年3月号)。これに対して、福島第2原発は手順書通りの対処がなされ、原子炉の冷却に成功したのである。

 (2) 国民の過半が反対しているにもかかわらず、なぜ原発再稼働か

 5年たった現在でも、日本経済新聞社による世論調査(2月29日付)によれば、6割の国民が原発の再稼働に反対である。ドイツは、福島原発事故を最終的なきっかけとして、脱原発を決めた。その理由は、新幹線が事故を起こさず、3分おきに走る「高度に組織されたハイテク国家、日本」で起きたのであるから、原発事故はドイツでも起こりうると考えたのである(詳しくは吉田文和『ドイツの挑戦』日本評論社、2015年参照)。

 民主党政権下で構想された「2030年代原発ゼロ」は、自民党への政権交代で撤回され、かわって「エネルギー基本計画」において原子力は、「重要なベース電源」とされた。「できる限り原発への依存度を下げる」という方針は、原子力ムラと電力会社の巻き返しにより、「電源ミックス」として原子力20%が死守された。2012年12月の総選挙による第2次安倍内閣誕生で、一番喜んだのは、電力業界であり、原子力ムラであった(この経緯について、小森敦司『日本はなぜ脱原発できないのか』平凡社新書、2016年)。

(3)原子力に見通しと展望はあるのか

 原発の再稼働が始まり、2030年20%目標が決められた原子力であるが、今後の見通しと展望が明るいわけではない。そもそも事故を起こした福島第1原発の「廃炉」そのものの見通しは、炉内の状況もわからず、極めて困難である。のみならず、放射性廃棄物の処分についても、見通しは立っていない。しかし、使用済み核燃料の再処理方針の抜本的見直しはなく、高速増殖炉「もんじゅ」の廃止も決定できない。

 原子力エネルギーを原理的に再評価し、継続する方針ならば、当然、新型炉や設備更新が必要だが、抜本的な改革は先送りされ、2030年原発20%目標のために、原発40年期限をさらに20年延長する方向になった。原子力を続ける場合のリスクを下げるには抜本的な整備更新を行う必要があり、中国などでも新型炉の建設が計画されている。にもかかわらず、日本では、40年期限をさらに20年延長することによるリスクが高まることが十分予想される(橘川武郎「原子力改革の遅れ 挽回を」『日本経済新聞』2016年1月19日)。

 「資源のない日本」を錦の御旗にして戦前の大陸侵攻を行ったように、戦後の日本も「資源のない日本」を理由に原子力開発と核燃料の再処理を合理化してきたが、「資源のない日本」といわれる日本は、ドイツなどよりもはるかに多様な再生可能エネルギー資源がある。

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