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「石炭への投資は金融リスクを招く」

その1 カーボン・トラッカーCEO、アンソニー・ホブリー氏に聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 世界のお金の流れが変わりつつある。昨年12月の国連気候変動会議(COP21)でパリ協定が採択され、気候変動の金融に与える影響に注目が集まっている。主要国の金融当局や中央銀行などでつくる金融安定理事会(FSB)は、これに対応するための基準づくりに乗り出した。陣頭指揮を執るのは、FSB議長で英中央銀行であるイングランド銀行(BOE)総裁のマーク・カーニー氏だ。

 「ミンスキーの瞬間を避けなければならない」

 2015年11月、記者会見で金融リスクについて質問した際、返ってきたのがこの言葉だ。「ミンスキーの瞬間」とは、投資家が一斉に株の投げ売りを始め、市場が大混乱をきたす瞬間のことを指す。この場合は、化石燃料関連株のことだ。世界の金融界は、その時が来るのを本気で心配し始めた。

 パリ協定に盛り込まれた世界の気温上昇を「2度未満」、温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にしようとすれば、確認されている化石燃料のうち実際に燃やせるのが2~3割であることははっきりしている。残りの化石燃料やそのためにつぎ込んだ資金は、不良資産になる可能性が大きい。これらは「座礁資産」とか、「燃やせない炭素」とか、「カーボンバブル」と呼ばれる。中でも標的にされているのが、熱量の割に二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭だ。

 ところが、日本では石炭火力発電所の新設計画が相次ぎ、2030年のエネルギーミックスでも発電構成の中で再生可能エネルギーよりも高い目標が掲げられている。欧米で進んでいる石炭への投資をやめる「ダイベスト」という動きも見られない。

 地球温暖化と金融リスクをテーマに、識者や関係者にインタビューしていく。初回は、2011年に発表した報告書で、「座礁資産」という言葉を世に広めた英国のシンクタンク「カーボン・トラッカー」の最高責任者(CEO)を務めるアンソニー・ホブリー氏に聞いた。(インタビューは、2015年12月に実施)

アンソニー・ホブリー
屈指の国際法律事務所「ノートン・ローズ」で、持続可能や気候に関する金融実務のトップなどを務め、2014年から現職。気候変動とクリーンエネルギーの法律や英国、欧州および国際的な環境法に詳しい。欧州排出量取引制度(EUETS)の設計にもかかわった。

 

アンソニー・ホブリーCEOアンソニー・ホブリーCEO
ーーカーボン・トラッカーはどういう団体ですか。

 金融の専門知識を有したプロフェッショナルによる非営利シンクタンクです。最大のチームは、HSBC、シティグループ、ドイツ銀行、バークレイズなど七つの投資銀行のアナリストからなります。私たちのビジョンは、気候的に安全な世界のエネルギーシステムを構築することです。使命は、温暖化による金融リスクや資本市場リスクを調整することにあり、投資適格財務分析や規制影響分析を使って金融市場に対して、データをわかりやく伝えることにあります。

 2011年に最初に出したリポートは、わずか100部の「燃やせない炭素」でした。そのままでは注目されなかったでしょう。ところが、そのリポートがビル・マッキベンという記者によってローリング・ストーンズ誌の

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