その2 シンクタンク「2度投資イニシアチブ」の創設者に聞く
2016年03月24日
地球温暖化によって、金融はどんな影響をうけるのか。
温暖化による金融リスクには、三つの側面があるとされる。一つは、台風や洪水、干ばつなど異常気象による直接的な損害や保険金の支払いなどの物理的リスク、二つ目は、温室効果ガスの排出責任や情報の秘匿を訴追や訴訟などで問われる責任リスク。三つ目は、社会が急激に脱炭素化することによって株や投資が不良資産化するなどの移行リスクだ。
すべてにおいてもそうだが、特に第3のリスクにおいては、回避するのに最も重要なファクターは、正しい情報とされる。「石炭関連のプロジェクトにどのくらい投資しているのか」「株などの金融資産が目減りする恐れはないか」……。前もって正しい情報があれば、投資ポートフォリオ(組み合わせ)見直しなどによって、投資家はあらかじめリスクに備えることや、リスクを分散することが可能になる。金融機関を監督する金融安定理事会(FSB)が、ブルームバーグ前ニューヨーク市長を座長に、情報開示の基準づくりのための作業チームを立ち上げたのも、それが目的だ。
温暖化リスクに関する情報開示で、一歩先んじているのがCOP21の議長国・フランスだ。2015年7月に制定された「エネルギー転換法」の173条は、フランスの企業や銀行、機関投資家などに、年次報告書での情報開示を求めている。フランスは世界で初めて、金融機関に温暖化リスクの開示を義務づける国になった。
現在は詳細を作成している段階だが、自社の温室効果ガス排出量だけでなく、バリューチェーン全体のカーボン・フットプリント、金融リスクに対する経営戦略、温暖化の影響を受ける金融資産などを、開示しなければならなくなるとみられている。
地球温暖化による金融リスクをテーマにした連載の2回目は、この法令作成に深くかかわった、パリを拠点にする温暖化と金融に関するシンクタンク「2度投資イニシアチブ」の創設者、ユーグ・シェネ氏とスタン・デュプレ氏に聞いた。(インタビューは、2016年2月に実施)
ーー今回の来日の目的を教えてください。
デュプレ 私たちは温暖化防止と金融市場を調整するために働いている世界的なシンクタンクです。日本は大きな経済と金融市場を持っており、世界を相手に仕事をするのであれば、日本を無視するわけにはいきませんし、日本の事情を理解しないわけにはいきません。投資家や年金基金、政府関係者、NGOなどに会いました。
シェネ 私たちのシンクタンクは、パリ、ニューヨーク、ロンドン、ベルリンという四つのオフィスがあり、様々なステークホルダーとの関係を築いています。日本にもネットワークを広げるために、現地調査に来ました。温暖化と金融リスクについての受け止め方は、組織によって様々です。まだよく理解していない人もいますが、新たなビジネスチャンスととらえている人もいます。
ーー温暖化リスクの情報開示を義務化するプロセスはどう進んでいますか。
シェネ 法律は今年から施行されましたが、実際に情報が開示されるのは来年6月で、検証するのに2年ほどかかります。その間に、明確な検証や義務化のプロセス、深い分析がなされなければ、情報開示についての関心は薄れてしまうでしょう。私たちの役割は、この問題に対する関心をさらに引き上げることにあります。例えば、法律の趣旨に沿ったよりよい開示や報告については、奨励し、賞を授与する。フランス以外の国際的な機関投資家による違った形の情報開示についても、同じようにする。映画のアカデミー賞のようなものです。そういった形で温暖化の金融に対するリスクについて、国際的な関心を高めていきたいと考えています。
ーーフランス以外で金融機関に温暖化リスクの情報開示を義務づける動きはないのですか。
シェネ 私の知る限りでは、いまはフランスだけです。FSBの作業チームも同じ問題を扱っていますが、フランスが義務なのに対し、FSBは産業界が主導する任意なので違います。欧州のいくつかの国は関心を持っています。スウェーデンは、情報開示について投資家と議論をしていると聞いています。自発的にいい情報開示がなされれば、法制化は必要ないと考えているのでしょう。ただ、うまくいかなければ、規制や法制化を導入を考えると思います。ほかの国は、フランスで成功するかどうかを注視しています。
ーー温暖化に関する情報は、すでに多くの企業が自発的に開示しているので、法制化は必要ないという声もあります。
シェネ 企業や金融機関が現在出している報告書のリスク情報は、まったく
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