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続・ロシアの大学院生が起こした「革命」

研究成果の公開をめぐる各国の現状とこれからの方向性

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 研究成果の公表の仕方を巡り、混乱が生じている。専門雑誌購読料の高騰や、インターネットを初めとするデジタルメディアの台頭が、問題を大きくしている。「誰がアクセスでき、誰がコストを払うのか」という視点から前稿では、きっかけとなったエルバキャン事件や、その背景事情などについてまとめた。

欧米の現状

 事件の背景として、財政問題のほかにもうひとつ忘れてはならないのが、「情報民主主義」の思想的な流れだ。欧米では公的研究資金を用いた研究成果について、研究者コミュニティーのみならず、広く社会への情報開示を可能にする取り組みが進んでいる。「最新成果は、納税者と知的(財的)弱者を含めて社会全体に」というのが理念だ。

米国立保健研究所=米メリーランド州ベセスダ、浅井文和撮影

 たとえば米国政府は、百億円以上の研究予算をつけている機関に対して、「公刊後1年以内に、研究予算の受容者=研究者が知見を公開するプランを作れ」という指令を発している。それに呼応する形で国立保健研究所(NIH)が、助成を与えた研究成果について、査読論文の指定リポジトリ(アーカイブ)への登載を義務化(2008年)。またNSF(米国立科学財団)なども、パブリックアクセスのプランを策定し公開する動きに出ている。

 英国やドイツでもそれぞれオープンアクセスジャーナルへの投稿を推進する方策がすでに採られ、また国際科学会議(ICSU)やRDA(Research Data Alliance)などいくつかの国際組織が、科学データの共有・流通を目指してルール策定などに動いている。

 目的は同じだが少し違うオプションとして、

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