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日本の大学教員は研究時間をなぜ取れない?

給料が教育とそれに伴う雑用への対価として支払われる制度が問題だ

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

 「新小1のなりたい職業で研究者が上昇し過去最高に」というニュースが先日流れた。これ自体は「研究者を職業としている」筆者にとって喜ばしいことだ。一方、研究者を志望して目をキラキラと輝かせている子供たちが数十年後にどうなっているかを想像すると、残念なことにあまり輝かしい姿が想像できない。

 それは、そういった子供たちが成長し、研究を思う存分やってノーベル賞を取るぞと意気込んで研究職を得たとしても、大学教員になった途端、その夢はシャボン玉のごとく弾けて消え去るのが目に見えているからだ。大学に所属する若手研究者の多くが、いつの間にか研究に使える時間は皆無あるいは雀の涙程度になり、ほとんどの時間は学生の教育、学生の悩み事相談、教授会やその他大学運営に関わる事務的な会議への出席、次から次へと溜まってくる山のような事務的な書類への対応にとられ、気がついた時には研究者ではなく、「ただの大学教員」に収まってしまっていた、という現実を筆者は数多く目の当たりにしている。

 ここでは、こうした事態を引き起こしている制度上の問題を指摘し、どう改革すべきかを考えてみたい。

 そもそも、日本の大学の教員への給料は、学生の教育、教育のための研究、およびそれらに付随する事務関連や大学組織運営の仕事(大学の教員の間では一般的に「雑用」と呼ばれている仕事)への対価として大学から支払われている。つまり、「研究のための研究」への対価としての給料は大学からは支払われていないのだ。

 筆者が長年研究・教育に携わっていた米国の大学でも、大学から支給される給料は教育や大学の運営に関わる仕事への対価である点は変わらない。「研究のための研究」をするためには、教員が自分で外部の競争的研究資金を獲得し、そこから自分の給料を支払うことになる。つまり、その給料の割合(これをエフォート率と呼ぶ)の時間を研究に当てることができる。外部からの研究資金が少ないか皆無であれば、それだけ教育や大学運営に携わることになり、研究に割ける時間、そして研究を行うためのスペース(つまり研究室の面積)は少なくなる。とてもわかりやすい制度だ。

 一方、日本の現行の制度では、科研費など研究費から自分の給料を出すことができない。日本の大学では、学生の教育や大学運営関連の仕事をしっかりした上で、時間外の空いた時間に研究をしろ、ということなのだ。これまで、文部科学省を中心に、競争的研究資金から教員が自分の給料を支払えるようにする制度に関する議論が10年以上前から行われているが、いまだに実施に至っていない。

 そもそも、平均的な科研費の年間直接経費が数百万円という現状では、そこから教員の給料の一部を出すこと自体が不可能だ。例えば、比較として、米国の主たる医学分野の研究費であるアメリカ国立保健研究所(NIH)からの研究費を例に挙げると、直接経費は通常年間2〜3千万円程度なので、大学教員がそこから、本人の給料の10%〜50%、研究プロジェクトに携わる専任の研究員の給料100%、そして日々の研究に必要な経費をまかなうことができる。

 それでは、日本ではどうしたら良いのだろうか。少々過激だが、 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤匠徳

佐藤匠徳(さとう・なるとく) 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)佐藤匠徳特別研究所 特別研究所長。独立行政法人 科学技術振興機構(JST)ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括・米国コーネル大学教授・豪州センテナリー研究所教授(兼任)。1985年筑波大学生物学類卒業後、1988年米国ジョージタウン大学神経生物学専攻にてPh.D.取得。ハーバード大学医学部助教授、テキサス大学サウスウエスタン医科大学教授、コーネル大学医学部Joseph C. Hinsey Professorを歴任後、2009年に帰国、2014年まで奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)バイオサイエンス研究科教授。2014年7月にNAIST退職後、2014年8月1日より現職。専門は、心血管系の分子生物学、ライブ予測制御学、組織再生工学。【2017年6月WEBRONZA退任】

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