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[8最終回]64歳の野望

市民活動支援基金と「半農半X」生活のこれから

星川 淳 作家・翻訳家、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト代表理事

 筆者が環境分野における市民活動支援のためのささやかな民間基金「一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト」(以下、abt)を設立し、その運営を預かっていることは、この連載でも何度か取り上げた。現在はそちらがフルタイム以上の比重になり、物書きは休眠状態に近い。このたび連載を締めくくるにあたって、広義の環境運動に含まれるとともに、ある種の最前線ともいえるabtの仕事ぶりをご紹介したい。

 まず財源だが、幸い2010年末の設立からこれまでは、事業趣旨に賛同してくれる複数の篤志家からの寄付を得ることができた。私の信念と経歴にかけて怪しいお金は受け取らないし、その運用に際して公私混同や利益相反に当たるような使い方を絶対に避けることは、なまじな公人以上に徹底している。

 もちろん、abt自体も、すべての助成先も、年度ごとに活動報告と収支報告をウェブ上で公開している。とはいえ、限られた寄付者への依存度が高い現状を変えるべく、助成事業と並行してabt独自のファンドレイジング(資金調達事業)に踏み出そうとしているのは、連載第7回で触れたとおり。

 助成実績は、設立6年目にして3部門(ネオニコチノイド系農薬問題、脱原発・エネルギーシフト、東アジア環境交流)で合計75案件を数え、助成額も通算1億3000万円を超えた。

 「ネオニコチノイド」という言葉さえほとんど知られていなかったところから、数多くの助成先と力を合わせ、日本でも一般市民のパブリックコメントによって厚労省の新規農薬登録を保留させるほどに、問題の社会認知度を高めた。世界的にも、abtが一部助成した国際自然保護連合(IUCN)浸透性農薬タスクフォースによる報告書なども貢献して、確実に規制が進みつつある(連載第2回参照)。

 脱原発部門では、くしくもabt設立直後の3.11発災を受け、被ばく防護のための避難や保養から、再稼働阻止の幅広い運動、そして放射能の生態系影響調査まで、官民を問わず他の助成団体では取り上げにくいエッジの立った市民活動への支援を続けてきた。また、身近な自然エネルギー導入を後押しする、クラウドファンディングへのマッチング助成も試みている。

 東アジア環境交流部門では、連載第5回「東アジア地球市民村の試み」で紹介したように、年に一度、日中韓台の市民が集うことをスタート台に、個別・具体的な派生プロジェクトも動き出した。たとえば私が注目したのは、2015年末に戦後70年を記念して行われた上海から南京までのピースウォーク「中国巡礼Ⅰ」。

 日本の若者が声をかけ、小規模ながら日中韓の参加者が、祈りを軸に340kmを2週間で歩き通した。「せっかくならもっと大きくやればいいじゃないか」と思われるかもしれないが、小さいほうが当局に邪魔されず、心のこもった行動ができることもあるのだ。さらに、上海で開催した2014年3月の東アジア地球市民村では、中国の一参加者からワークショップ中に100万円の寄付申し出があり、歯車が回り始めた手応えを感じた。

 さて、運営はというと、私はほとんど屋久島から動かず、首都圏に3人の有給スタッフがいて、スカイプ(インターネット経由の無料通話で複数参加可能)による朝礼・終礼を節目に、それぞれ在宅勤務する。スカイプは助成先、委託先、国内外の協力者などとの会合にも大活躍なのだが、屋久島は光回線が未整備でADSLしかないため、相手が多かったり、映像をつけたりすると(スカイプはビデオ動画つきのテレビ電話機能も特徴)、ネット接続がダウンしやすくて困る。光ファイバーへのユニバーサルアクセスを、インターネット時代の基本的人権として求めたい!

 

温暖化防止キャンペーンに寄せて、半農半X生活の必需品である草刈機も電動に変えたことをアピール。温暖化防止キャンペーンに寄せて、半農半X生活の必需品である草刈機も、電動に変えたことをアピール。とはいえ、エンジン草刈機でないと歯が立たない草や低木も多い。
世界自然遺産の島で、三方を自然林に囲まれ、自分が名づけ親とされた元祖「半農半X」な暮らしぶり(昔はXが「著」だったが、いまは「マネジメント」か……)。畑からとれたての野菜を食べ(ただし野生のヤクザルとヤクシカから死守したもの!)、ほぼ水力100%の電気で走る車が生活の足、などと聞けばうらやまれるかもしれない。

 しかし、

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