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隕石が衛星にぶつかった可能性はいかに?

打ち上がったばかりの「ひとみ」のトラブルを考える

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 2月17日に打ち上がったばかりのエックス線天文衛星「ひとみ」が3月26日に通信できなくなった。

拡大ひとみのトラブルについて説明するJAXAの久保田孝・宇宙科学プログラムディレクター=4月1日、JAXA東京事務所、奥村輝撮影

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の発表によれば、衛星からのシグナルが10秒以下の速い周期で不規則に点滅しており、姿勢制御のトラブルによる高速回転で通信が途断したらしい。更に地上観測から、衛星を含めて10個の物体が近くを飛行していて、そのうちのいくつかが衛星の一部である可能性、すなわち爆発や衝突などで衛星がバラバラになった可能性を示唆している。

 さて、ここまでの情報から、普通の人は何を想像するだろうか? 宇宙ゴミ(過去の人工衛星の残骸)や隕石が「ひとみ」衛星の端っこに衝突して回転を始めたのではないかと直感する人が多いのではあるまいか。

 しかし、JAXAの発表では、その可能性を「確率が低い」として否定している。そして、プロジェクトと関わりのない私も、この判断にうなずいてしまうのだ。

 本稿では、普通の人が抱く直感がどこまで正しいか簡単に検証し、加えて、JAXAが他の原因に理由を求めた根拠を推測したい。ただし、部外者の私の手元にあるのはニュース情報程度なので、それを元にした推測に過ぎないことを予め断っておく。

隕石はどんなに小さくてもダメージが大きい

 まず、宇宙ゴミだが、これはきちんと追跡されているので、それを見逃したとは考えにくい。一方、隕石衝突の可能性は排除できない。その理由は以下の通りだ。

 隕石がぶつかったときのダメージは重量に単純に比例し、速度については、その自乗に比例する。そして、隕石が怖いのは、そのとてつもない速度のせいだ。

 地球が太陽を回る公転速度は毎秒約30km(時速でなく秒速であることに注意)で、同じく太陽の回りを公転している隕石との相対速度を平均すると、大雑把に秒速40km程度にものぼる。だから、非常に軽くても相当な破壊力を持つ。

 比較のために、時速50kmで走る乗用車(約1トン)を考えてみよう。この乗用車が「ひとみ」サイズの衛星にぶつかったら、衛星は大破してもおかしくない。

 隕石の平均速度は、この乗用車の3000倍程度だ。速度によるダメージは3000X3000=900万倍程度となり、1トンの乗用車の900万分の一程度の重量、即ちわずか0.1グラム程度(砂粒サイズ)でも同じダメージを与えられることになる。そして、隕石や小惑星が、サイズが小さくなるほど数が増える事実を考えると、ひょっとしてと思えなくもない。

隕石が衝突する確率

拡大隕石や小惑星の質量と、地球に近づく頻度の関係を大雑把身に示した。より詳しい議論は米国ジェット推進研究所の専用サイトなどにある。
米国ジェット推進研究所の専用サイト
 となると、具体的な衝突確率が問題になる。流星観測や望遠鏡による直接観測によると、隕石の分布密度は質量にだいたい反比例し、左図に示すように隕石が一桁重くなるごとに、個数も概ね一桁減る。そして、例えば100gサイズの隕石は、大体2000平方キロメートル程度の範囲に年1個の確率で地球上空にやってくることも分かっている。

 もっとも、非常に小さなサイズの隕石となると、観測が困難ゆえに質量と頻度の関係は正確に測定できていない。しかし、反比例の関係が余り崩れないと仮定すれば(図の点線部分)、砂粒サイズの隕石(乗用車並みの破壊力を持つ)は、約2平方キロメートルの範囲に年1個、の割合で衛星軌道上に降り注いでいると想定できる。そして、「ひとみ」衛星のサイズを太陽パネルも含めて大雑把に20平方メートルとすると、砂粒サイズの隕石の衝突確率は10万年に1度となる。

 一見、とてつもなく低い確率のように見えるが、実はそうでもない。というのも、 ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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