性差を無視しないという、研究開発への新視点
2016年04月25日
ジェンダードイノベーションの提唱者、米国スタンフォード大学歴史学部のロンダ・シービンガ-教授が3月に来日、東京や福岡で講演した。日本ではほとんど知られていないこの用語、研究や技術開発にあたって性やジェンダーによる差を無視してはならないという考え方を指す。この視点は欧州や米国の大学や研究所に広がっている。どうも日本だけが遅れを取りそうな情勢だ。
科学の世界のジェンダー問題といえば、女性研究者への差別問題を指す時代が長く続いた。米国でも、政府や大学は第1段階として「女性研究者の増加」を目指し、第2段階として「制度改革や組織改革を通じて職業における男女平等を実現する」ことを目指してきた。単に女性にがんばれというだけではダメ、あるいは単に男性に意識を改めよというだけではダメで、研究資金や人事に関する制度改革が必要という認識が広まったのが第2段階というわけだ。
そして、その次の段階がジェンダードイノベーションだとシービンガ-さんは言う。科学や技術そのものを、ジェンダーの視点を入れることによってより良いものにしていく。そのために、研究には必ず「男女差分析」を入れるようにする。それはオスとメスで別々にデータを取ることだったり、技術開発の現場でユーザーを男性と決めつけていた慣習を改めることだったり、さまざまだ。有用な男女差分析の方法を開発し、多くの研究者や技術者に提供していくのが、ジェンダードイノベーションプロジェクトの目標だという。
このプロジェクトは、2009年にスタンフォード大学で始まった。2011年には欧州委員会が「ジェンダーを通じたイノベーション」という専門家グループを設置、シービンガ-さんはその代表になった。そして2013年に131ページにわたる報告書「ジェンダードイノベーション 男女差分析はいかに研究に役立つか」を発刊。米国科学財団もこのプロジェクトに2012年から加わった。
この活動を通じて、男女差を無視したことで私たちの社会は多くの損害を被ってきたことが明らかになった。例えば、
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