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ストレス社会とテンション社会

熊本の被災地支援のありようから考える日米の文化差

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 熊本の大地震で、避難所での生活の困難が続く。被災した人々の我慢強さと協調性が、日本人の美質として賞賛されている。その半面で生活の不自由からくるストレスが、高齢者を中心に心身症状をもたらし、時には命に関わる事態となっている。他方ツイッターなどを介して支援の輪が広がっている。それ自体は素晴らしいが、自粛の可否を巡る論争や「不謹慎狩り」といった「はなはだ日本的な」状況も進行中だ。

拡大「不謹慎狩り」についての俳優たちのコメントを伝える朝日新聞デジタルの記事
拡大左の記事の続き

 翻って米国では、大統領予備選の熾烈な戦いが延々と続けられている。「何の関係が?」と思われるだろうが、改めて思うのは、日本社会と米国社会の価値観の違いだ。その文化差を理解するのに、「ストレス」と「テンション」というキーワードが役に立つ。

ストレス社会とテンション社会

 以下、新聞記者の友人からまた聞きした話だが、米国で活躍する高名な日本人研究者が、こう語ったそうだ。「日本はストレスが高いが、テンションは低い。米国は高テンションだが、ストレスは低い」と。これには唸(うな)った。文化差を心理的側面から端的にとらえている。

 ストレスとテンションの関係について、少し説明が必要だろう。

 ここでは必ずしも心理学や心身医学の専門用語としてではなく、日常用語の範囲で使っている。

 高いテンションは、しばしば個人の心の内側に鬱屈したストレスを外に発散するときに生じる。立場の違いから激しく論争したり、団結して抗議の声を上げたりする場合がそうだ。個人の心理としてみると「カタルシス(浄化)」作用を伴うのが特徴だ(つまりガス抜き効果はある)。

 逆にストレスを外に発散させずに心の内側に閉じ込めていると、目に見える摩擦は生じず表面的な協調は保たれる。だが溜め込んだガス=ストレスが、時として爆発することになる。ストレスの原因はいろいろあるが、日本社会が「高ストレス」だと言う時のストレスは、主にこういう性質のものだ。

 日本は「摩擦を回避する社会」、対して米国は「摩擦を恐れない社会」と言い換えても良いかもしれない。

リーダー選びに端的に見られる違い

 今ひとつピンと来ないという人は、一国のリーダーを選ぶ手続きを比べてみてはどうだろう。日本では首相をはじめ、組織のリーダーが基本的に「根回し」で決まる傾向が強い。政策論争や選挙は形としてはあっても、実質的な決定は裏の交渉や談合に影響される。「根回し」には、表舞台での争いや摩擦を事前に避ける意味合いが濃い。

 これに対して米国のリーダー選びは(大統領選がその典型だが)、公共の場で派手な大立ち回りを演じそれが延々と続く、消耗戦のイメージが色濃い。だからこそ今回のように、共和党や民主党の幹部ですら制御出来ない展開が起こりえる。

 「日本は高ストレス、低テンション」「米国は高テンション、低ストレス」と述べた。しかしだからと言って、日本を「高ストレス社会」として、また米国を「高テンション社会」として特徴付けるのには、賛成できない。というのも、それぞれは結果としてそうなっていると考えられるからだ。

 むしろ日本社会の仕組みや慣習は「テンションを軽減する」ために、また米国社会は「ストレスを軽減する」ために、機能しているのではないか。

入試の文化差

 そのように見て来ると、社会制度や慣習の様々な違いに納得が行く。たとえば入試はどうだろう。

 日本の入試で ・・・続きを読む
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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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