伊勢志摩サミットでも議題に
2016年05月13日
抗菌薬(抗生物質)が効かない薬剤耐性菌の対策が、国際政治課題となっている。昨年5月に世界保健機関(WHO)総会で世界行動計画が採択され、6月にドイツで開かれたG7主要国首脳会議(エルマウサミット)でも首脳宣言に盛り込まれた。このとき先進7カ国の中で唯一行動計画(アクションプラン)がなかった日本は、大慌てで今年4月に薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを完成させた。日本が議長国となる5月26,27日の伊勢志摩サミットでも、耐性菌対策が取り上げられる見込みだ。
アレクサンダー・フレミングがアオカビからペニシリンを見つけた1928年から抗生物質の歴史は始まる。細菌を死滅させる威力は素晴らしく、40年代に医療現場で使われるようになると感染症の特効薬として人々に絶賛された。やがて人間の感染症だけでなく、家畜や養殖魚などの病気予防にも広く使われるようになっていった。
しかし、薬の攻撃を受けた細菌は自らの性質を変化させることで生き延びようとした。こうして薬が効かない菌、つまり薬剤耐性菌が誕生する。これをやっつけるには別の抗生物質が必要になり、やがてその新しい抗生物質に対しても耐性を持つ菌が生まれ、という具合に戦いは一筋縄ではいかないことが明らかになった。その一方で、新薬開発は足踏み状態に。先進国では主な死因ががんや脳血管疾患といった非感染症に変わり、莫大な費用をかけて感染症薬を新たに開発してもさして利益を見込めなくなったからだ。新薬が出なければ、人類は耐性菌に対して打つ手なしとなってしまう。ペニシリン誕生前の状態に戻ってしまうわけだ。
すでに薬の効かない結核やマラリアは広がり続けている。先進国でも、体力の弱った入院患者に耐性菌の感染が広がる「院内感染」がしばしば問題になる。影響は新生児にも出ており、最近まとまった日本の学会の調査では入院例が3年間で少なくとも65あった。
英国の委員会報告によると、これら耐性菌が原因とされる死者は2013年に少なくとも70万人。このペースで耐性菌が増えると2050年には世界で1000万人が死亡すると推計されている。さらに、エボラ出血熱など人にも動物にも感染する病原体による新興感染症の脅威も広く知られるようになった。こうして、人だけでなく動物や環境も含めた包括的な対策を各国政府が手を取り合って進めていくべきだという機運が盛り上がってきた。
実は、耐性菌が深刻な問題であることは20世紀の終わりには認識されるようになっており、米国政府は2001年にアクションプランを発表した。同じ年にWHOも耐性菌封じ込めのための世界戦略を作った。ところが、この年の9月11日にアメリカ同時多発テロが起こり、米国政府の関心は一気にバイオテロに移ってしまう。こうしてしばらく脇に置かれていた耐性菌問題だったが、オバマ大統領が2014年初頭の一般教書演説で触れ、一連のアクションが動き出した。
日本政府の
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