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初夏の鳴く虫探訪

オスが敵のそばで鳴き続けるのは何故か?

大谷剛 兵庫県立大学名誉教授(動物学)

 鳴く虫といえば秋を連想するだろうが、実際は初夏から鳴き始める。5月の末に結構たくさん鳴いているコガタコオロギなどは、コオロギらしからぬ「ビイーッ」という一声を発するので、たいていの人は気にも留めない。しかし、姿は「立派な」コオロギである。

拡大コガタコオロギ=写真はいずれも、鳴く虫研究会「きんひばり」提供
拡大タンボコオロギ

 初夏のコオロギはもう一種いる。「ジャッジャッジャッ・・・・・」とこちらはかなり喧(かまびす)しく鳴いているが、ほとんど気づかれることがない。タンボコオロギという名であるが、ちょうど日本の田んぼでは、アマガエルの大合唱が始まっていて、「ゲッゲッゲッ・・・・・・」のリズムがタンボコオロギにそっくりなのだ。ほとんどの人は、カエルの一種だと思っているに違いない。慣れると音質の違いでカエルかコオロギかはわかるのだが、リズムはほぼ同じである。「リズムの擬態」ではないだろうか。

拡大ケラ

 この時期、田んぼにはもう一種鳴く虫がいる。モグラのような、土中の穴掘り生活を送るケラである。昔はかなり大量に生活していたらしい。その証拠にケラの卵しか食べないゴミムシがいるほどである。その名もミイデラゴミムシ。尻先で化学物質を2つ化合させ、敵に100℃以上のガスを吹きかけることで有名なゴミムシ類(甲虫目)である。

 ケラのオスは土中に穴を掘り、その中で鳴くので、くぐもった音で「ビーーーー」とちょっと表記が難しいが、連続音である。ほとんどの鳴く虫はオスしか鳴かないが、ケラはメスも音を出せる。だだし、低い小さい囁(ささや)くような声で「ケラ」と聞こえる。狭い坑道で仲間と出会ったとき、挨拶のように「ケラ」と鳴く。観察用飼育箱での観察結果だ。

 次に観察の場を芝生に替えよう。公園っぽいところにはよくある芝生。「ジーン、ジーン、ジーン、・・・・・・」とあちこちから聞こえてくる。シーツのような白い大きな布を広げておいて、ちょっと追い込めば、5〜7 mmのコオロギ系の虫が次々と飛び込んでくる。マダラスズである。後ろ足の太腿がこげ茶とクリーム色の斑(まだら)になっているのでついた名前である。小さいコオロギの仲間には、スズムシからきた「スズ」というのをつけることが多い。

 同じ芝生で、2〜3週間経つと、同じぐらいの小コオロギが現れる。鳴き声は「ジーーーーーー」という単純な連続音。ただし、ときどき途切れる。マダラスズよりかなり高音で、高齢者には聞こえにくい。名前は「シバスズ」。色は黄土色で、斑はない。これで5種を紹介した。

 観察環境をもう一度替える。川や止水などの水辺。アシなどの丈の高い草に棲んでいる。近づくと、「りーーーーーーー」という連続音が聞こえてくる。もっと近づいて、一匹だけの鳴き声を聞くと、「リー、リッリッリッリー」と鈴を転がしたような美しい声である。シバスズ、マダラスズより少し大きくて体色は金色、名前を「キンヒバリ」という。 ・・・ログインして読む
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筆者

大谷剛

大谷剛(おおたに・たけし) 兵庫県立大学名誉教授(動物学)

兵庫県立大学名誉教授、神戸女学院大学非常勤講師。1947年、福島県生まれ。東京農業大学卒業後、北大大学院に進み、(有)栗林自然写真研究所、(財)東京動物園協会を経て、兵庫県立人と自然の博物館と兵庫県立大学を2013年に定年退職。専門は昆虫行動学。『ミツバチ』(偕成社)、『昆虫のふしぎ─色と形のひみつ』(あかね書房)、『昆虫─大きくなれない擬態者たち』(農文協)など。

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