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「アルファ碁が人間に勝ったこと」の本質(下)

AIが半導体を製造する時代が到来する

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 半導体の製造は、高度に専門化された技術の集積によって可能になる。だから、中国が国策で10兆円を超えるカネを半導体に投じようとも、技術者が育たず定着しないお国柄では、半導体の製造は無理だろうと思い込んでいた。もちろん、コンピュータ―が半導体を製造するなどハナから無理だと思っていた。

 しかし、これに異を唱える人が現れた。元東京エレクトロンで現在Tech Trend Analysis代表の有門経敏氏は、「深層学習機能を持った人工知能(AI)が、プロセスフローを構築し、半導体を製造するようになる」ことを予測したのだ。

 それでも尚、「そんなことは不可能だ」と反論していた。そのようなときに、矢野和男氏が書いた「AIで不可能な時代に挑む」(日立評論、2016年4月号)を読み、「ビジネスにおいて、従来のコンピュータ―やAIを利用するには、その対象となる分野の専門的知識が必要不可欠だった。ところが、深層学習という機能を備えたAIを利用すれば、その分野の専門知識はさほど必要ない」ことを知った。

 その結果、いずれ半導体製造にも深層学習機能を持ったAIが使われるようになるだろうと思い始め、それどころか、必ずやAIが半導体を製造する時代が来るだろうと確信するに至った。本稿では、最初は不可能と思っていた半導体製造とはどのようなものか、そこにAIがどのように使われると予測しているかを論じよう。

半導体チップができるまで

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 半導体の製造は、設計、プロセス開発、量産に分かれている(図1)。筆者が特に「コンピュータ―には無理だ」と思っていたのは、プロセス開発においてである。

 プロセス開発では、設計結果を基にして、シリコンウエハ上にトランジスタや配線からなる3次元の構造物(チップ)を製造するための工程フローを構築する。工程フローは500~1000ステップに及ぶ。そして、この工程フローを構築する技術を「インテグレーション技術」と呼ぶ。

 シリコンウエハ上には、1000個ぐらいのチップが同時につくられるが、たった1個でも所望の動作をするチップができれば、工程フローは一応完成する。しかし、新しいチップの場合、これがなかなか難しい。そのため、プロセス開発では、何度も試作を繰り返して、最低でも1個のチップが動作する工程フローを構築する。この時の良品の割合(歩留り)は、1/1000=0.1%ということになる。

 それができたら、工程フローは量産工場に移管される。工場には数百台の装置が並べられ、工程フローの一つ一つを最適化することによって、0.1%だった歩留りを100%に近づける(通常、90%くらいで飽和する)。さらに、数百台の装置が安定稼働するよう注力して、その高歩留りを維持する。

 例えば、1枚のウエハに1000個のチップを製造し、歩留りが90%だったら、900個が良品となる。これを1個1個切り出して、樹脂やセラミックのパッケージに挿入して、チップが完成する。

特に難しいインテグレーション技術

 経営学者やジャーナリストが「半導体チップは、数百台の製造装置を購入して並べてボタンを押せば、誰でもできる」という論文や記事を書いているが、まったく間違っている(東大の名のある経営学の教授までもがハードカバーの専門書に、そのような記述をしているのには驚くばかりだ)。

 確かに量産工場を見学すれば、数百台の装置がずらりと並んでおり、オペレーターがボタンを押している光景が見られるであろう。いや、今はボタンを押すことも自動化されている場合があるから、「装置を買って並べれば半導体チップはできてしまう」という人が現れるかもしれない。

 彼らがそのような暴論を吐くのは、500~1000工程にも及ぶフローを構築する「インテグレーション技術」の存在を知らないからである。何しろ、 ・・・ログインして読む
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筆者

湯之上隆

湯之上隆(ゆのがみ・たかし) コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

1987年京大修士卒、工学博士。日立などで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、各種雑誌への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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