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オバマ氏広島訪問に被爆者の援護問題を思う

放射線の健康被害だけを対象した背景と、それが生み出した誤解

長瀧重信 長崎大学名誉教授(放射線の健康影響)

 原爆投下後71年目にオバマ大統領は広島を訪問した。原爆資料館を見学し、原爆慰霊碑に献花し、原爆の悲惨さを認識して核兵器なき世界を追求する勇気を語った。

オバマ大統領と握手を交わす森重昭さん(左)と、安倍首相と握手する坪井直さん=27日午後、広島市中区、青山芳久撮影

原爆の被害

 原爆の悲惨さは、被爆者の記憶として保存され語部(かたりべ)によって直接伝承されるとともに、当時のさまざまな資料が広島平和記念資料館長崎原爆資料館に展示されている。さらに多くの写真集、文集の記録も刊行されている。

 原爆の爆弾としての科学的な記録も、占領軍であったアメリカ陸軍から1951年に6冊の出版物として刊行され(WEBRONZA2014年2月18日「投下6年後に出版された『原子爆弾の医学的影響』がネットで無料入手可能に<上>」)、また共同して資料を作成した東京大学を中心とする日本の学者によって日本学術会議の調査報告として1951年に総括編、1953年に2冊の分冊が刊行され、その解説的な一般書も刊行されている(WEBRONZA2014年2月19日「投下6年後に出版された『原子爆弾の医学的影響』がネットで無料入手可能に<下>」)。

 これらが一緒になって、広島・長崎で20万人ともいわれる被爆者が亡くなった原爆の阿鼻叫喚は日本人の心に深く焼き付けられている。

被爆者の援護は、放射能に起因する健康被害のみ

国が指定する「被爆地域」(赤の部分)。地域外にいた人は「被爆体験者」と呼ばれ、援護の対象外だったが、2002年から被爆体験による精神疾患とその合併症に限り、医療費補助を受けられるようになっている。
 一方、被爆者の援護について規定した被爆者援護法は、その前文に「原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため」と記載している。

 「放射能に起因する健康被害」と明示されているため、長崎の被爆体験者(爆心地から7.5~12キロの範囲で被爆)が被爆者健康手帳を求めた最近の裁判でも、福岡高裁は「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情があった」との規定には該当しないと判決している

その背景

 原爆の悲惨さを認識して核兵器なき世界を追求すると主張する日本で、原爆被爆者の認定、援護の基本として原爆の放射能のみが取り上げられているのは、

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