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急激な石炭離れで、高まる大損のリスク

その3 経済分析の専門家、IEEFAのティム・バックレー氏に聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 石炭への逆風が続いている。世界最大の石炭採掘会社「ピーボディーエナジー」(米国)は4月、連邦破産法11条に基づく会社更生手続きの適用を申請した。世界の石炭消費の半分を占める中国では、5月までの石炭生産が前年比1割近く減となっている。これまで増え続けてきたインドの4月の石炭輸入量も、前年同期で15%減少した。

 「ピーク・コール」は、すでに過ぎたのかもしれない。

 石炭などの化石燃料からの投資引き揚げ(ダイベストメント)も続いている。8600億ドル(約102兆円)という、世界最大規模の資産を有するノルウェーの政府年金基金は今年4月、最初のダイベストメント対象企業を発表した。52社の中には、日本の3社(北海道電力、四国電力、沖縄電力)も含まれている。石炭企業への投資は、もはや回収の見込みのない「座礁資産」になるリスクが大きいと見なしているのだ。

 一方、自然エネルギー市場は、かつてない活況を呈している。太陽光発電は昨年、5千万キロワットが新たに導入された。最大は中国の1500万キロワット、次いで日本の1100万キロワットだ。世界全体の太陽光発電は、2億3千万キロワットになった。世界的な化石燃料価格の低迷にもかかわらず、この傾向がとどまる気配はない。ダイベストメントと自然エネへの投資拡大がセットになり、エネルギーをめぐるお金の回り方に明確な変化が表れ始めたようだ。

 世界のエネルギー市場はどこに向かうのか。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA、オーストラリア)で、エネルギー・ファイナンス・ディレクターを務めるティム・バックレー氏に聞いた。

ティム・バックレー シティグループで株式の調査グループのトップ、マネージングディレクターを務めるなど、金融市場業界で25年の経験を持ち、オーストラリアやアジアなどの株式市場に詳しい。IEEFAでは、主に中国、インドのエネルギー分野に関する研究に携わり、石炭や電力部門の経済分析を得意とする。

 

ティム・バックレー氏拡大ティム・バックレー氏
――IEEFAでは、日本の市場についても研究を始めたそうですね。

 過去10年間、IEEFAは米国、中国、インドに注目してきました。これに日本を加えた4カ国が、世界の4大電気市場です。日本は、石炭、LNGの世界の3大輸入国の一つでもあります。電力市場が大きく変わる中で、中国、インド、日本で、座礁資産がどのような影響を与えるのか。日本市場で起きていることが、世界の電力市場の変化にどのような影響を持つのか、を見ていきたいと思っています。

 私のバックグラウンドは、環境ではなく金融です。IEEFAは市場における構造的なトレンドを見ています。構造変化は、必ずしも気候変動や炭素に関する政策によって起きているわけではありません。

 ――日本のエネルギー市場をどう見ていますか。

 日本では太陽光発電に大規模な投資がされ、ここ2年、世界のトップ2カ国の一つになりました。FITの導入以来、7200万キロワットが設備認定されています。これだけ追加されていくと、大きな影響があります。ソーラーが大規模に導入され、省エネが組み合わさっている。同じようなことが、過去1年半、中国、米国、ドイツ、インドでも、大規模に起きています。既存の産業には、予想以上の打撃になっています。

 日本でも、経済成長と電力需要が比例しない、デカップリングが起きています。福島原発事故後、電力需要はピークの2010年に比べて12%減っています。この間に経済活動はアップしました。同じことが、米国、中国などでも見られています。低排出技術の普及と、省エネの改善が理由です。

 ――金融分析の面から、ダイベストの動きをどう考えますか。

 我々は合理的な投資政策と呼んでいますが、ダイベストメントによって変化を余儀なくされている企業は多くあります。変化は、ダイベストというピープルズパワーと株式市場の両方で起きています。IEEFAの見方では、構造的な変化は、人々が思っているよりずっと速いペースで起きているということです。

 ダイベストは、資本を失うことを避けるということです。我々は、ファンドマネジャーに対してダイベストを推奨はしませんが、「合理的な形で投資をして損失を抱えるのを回避するように」とは推奨します。今年に入り、石炭の生産が30%下がっているということは、だれも予想しなかったほど急速な変化が起きているということです。

 ダイベストの一番大きなインパクトは、石炭分野から世界的な銀行の資本が逃避していることです。グローバルな銀行は、「なぜ、構造的に斜陽な産業に投資をしなければならないのか」と考えるようになったのです。

 多くの銀行は、パリでのCOP21での合意(パリ協定)を実施に移す形で、方針を彼らの組織内に導入するようになりました。「いま行動しなくてはならない」という動きが、加速されているのです。石炭プラントには金がかかります。グローバルな金融機関から融資を受けられなければ、石炭火力発電は建設できません。

 ――シティグループやバンク・オブ・アメリカなどは、ダイベストメントを宣言していますが、日本の金融機関にはそのようなところはありません。むしろ国内では石炭火力発電の新設計画が相次いでおり、融資する金融機関もあります。

 だからこそ、IEEFAは日本を研究対象に加えたのです。日本の電力会社はグローバルなトレンドとは、逆を行っています。2000万キロワット以上の石炭火力の新設計画は、座礁資産をつくっているようなものです。日本の銀行は、アジアの石炭火力発電にも投資をしています。これらは、座礁資産となって大きな資本を失う極めて高いリスクがあります。逆を行く日本のリスクは、非常に大きくなっていると思います。

 一例を挙げましょう。住友商事は2012年、オーストラリアにあるアイザック・プレーンズ炭鉱の権益の50%を4億3000万豪ドル(326億円)で買いました。14年末に売却したのですが、この時の価格は ・・・ログインして読む
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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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