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海外在住者の郵便投票をこれ以上不便にするな

郵送票の重要性は増しているのに、郵便が間に合わないような改悪を続ける時代錯誤

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 オーストリアで最高裁判所が大統領選挙のやり直しを命じた。

拡大決戦投票日にテレビ各局の臨時スタジオを訪れ、報道陣に囲まれる自由党のシュトラッヘ党首(中央)=2016年5月22日、ウィーン、喜田尚撮影
 5月22日の決戦投票(第1回投票の上位2人による)で、郵便投票を除いた票だけだと反EUの候補が51.9%確保していたのが郵便投票を入れると親EUの候補が50.3%となり逆転した。それに対して反EUの候補が統計的に不自然だとアピールし、郵便投票の扱いの不正の可能性を指摘した結果、単に国論が割れただけでは済まない泥沼状態になったからだ。代理民主主義は、代理を選ぶ過程に信頼がないと成り立たない。しかも、英国のEU離脱という結果で、前回の選挙での僅差が大きく変動して国民が納得できる結果になる可能性が高い。再選挙は歴史的名判断だといえよう。

 一方、英国の国民投票に関しては、公約違反が明らかとなり、再度の投票をしたら残留派が勝つだろうと思われる。それにも関わらず(敗北した)英国首相は再投票を否定した。なぜなら、国民投票とは国民が責任を負うものであって、あとから「それはなかった」「だまされた」と主張して有権者が結果を受け入れなかったら、何事も決定できないからだ。だまされているかどうかの吟味を含めて投票に責任を持つのが民主主義における「民」の義務である。責任の持てない投票・棄権は民主主義を衆愚政治と独裁に変質させる。そういうナチス台頭の教訓をふまえて、「責任を持て」という意味を込めた再投票を否定だ。

 さて、オーストリア大統領選挙では、郵便投票の結果が国内投票の結果を大きく異なっていた。だからこそ結果が逆転し、だからこそした反EU候補のアピールで選挙のやり直しに至った。逆にいえば、郵便投票制度のお陰で、オーストリアは反EUの移民排斥者を大統領に持たずに済んだことになる。

 一般に国を離れた者と国内在住者とでは「危機」と呼ばれる事象への反応に大きな温度差があり、国外在住者ほど国際協調派が増える。特に昨今の難民危機がオーストリア在住者に感情的な影響を与えていることを考えると、国内が反EU反移民に傾き、EU内の他の国に住んでいる者(EUを享受している者)のほとんどが親EUであろうことは想像に難くない。その違いが(国外投票者が多数を占める)郵便投票による逆転という結果につながった。

 国の方針を決める投票で郵便投票がこれほどまでに重大な役割を果たしたことはかつてない。過去の有名な例では、2000年の米国大統領選挙のフロリダ州がある。キャスチングボードを握ったこの州は、投票所分でブッシュ候補が暫定1800票差で勝っていたが、郵便投票でゴアに300票差にまで追い上げられ、あわやゴア大統領かと思われた。結果的には逆転では至らなかったものの、郵便投票の重要さを世界に知らしめた。

拡大過去の衆院選で使われた郵便投票用紙類=筒井竜平撮影
 国外在住者の郵便投票制度は日本にもある。しかし、その運用は回を追って不便になっている。というのも、
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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